銀河の行軍【狡猾な弱音の出現】
夜半過ぎ、軍は小休止を取ることにした。どの隊も疲弊していた。あの出発からわずかな時間しか流れてないなかったというのに、自分たちの弱さを三瀬つけられた気がして、弱音が漏れ始めていた。
中には弱音など漏らしてしまえば、あの総大将にまた無間地獄に突き落とされると黙っているものもいた。しかし総大将は何も言わず悲しそうに眼をそむけるばかりだった。それを察した幾人かは弱音を吐き始めた、それを察した幾人かは弱音など捨ててしまえと、少し行ったところで唾を吐き捨てた。小便をしたものもいた。その差を見ていたのは、甚吾であったし亮だった。もちろん総大将は何も言わない。
先陣を切って怒ったのはしんがりをつとめる亮だった。血気盛んなところはさすがであると甚吾は笑いをこらえるのに必死だった。
口で説明する性質ではないといわんばかりに、亮は右のこぶしを弱音を吐いたものの左のえらに食い込ませて殴り上げた。血しぶきが吹き上がる。驚いた隊全体は亮と弱音と双方を見た。弱音は何も言わず、ただ驚いたとばかりに亮を見上げていた。
総大将の顔を見たのはもちろん亮だったし、甚吾だった。
総大将は泣いていた。
亮は、もうひとりの弱音を殴りつけた。
弱音も男である亮に向かっていく。こぶしを振りかざすと、亮はそのこぶしを払いのけ今度は左右両方のえらに自分のこぶしをめりこませた。
大きな騒ぎになる、そう思って甚吾は口を真一文字にした。
「なんで殴るんだよ!お前は何者なんだよ!!」
言葉を使ったのはもちろん弱音が先だった。そうなるだろうと、甚吾も総大将も踏んでいた。亮が武闘派であるからではない、事を察しているのは亮であるからだ。
亮は一発食らったようで、血反吐を弱音に向かった吐きかけた。
ーーー弱音はなぜはいた!精査してみろ!!状況を思い出して弱音を吐こうと思ったきっかけを思い出せ!!!!
弱音は亮の言葉に思いを巡らせることはなかった。そこに痛みがあり、その痛みを受容するほど体が整っていなかったからだ。そう判断できたのは弱音ではなく甚吾だった。
ーーーおい、弱音は吐く場面を選ぶべきではないんだ。弱音というものは場面で吐いてしまえば誰かがその弱音を請け負わなければならない。責任となって押し付けてしまうようなものだ。
甚吾は静かに言った。亮はもう一度、その弱音に血反吐を吹きかけた。
ーーー総大将の涙は何色か、よく考えろ!!!
弱音は総大将のほうを見た。
もう総大将は悲しみにくれてはいなかったし、涙の影すら見えなかった。
亮は思った
(なんで肝心な時にこの人は涙を見せないんだ、くそ!!!)
総大将はその思いも知っていた。だからこそ涙の跡形を消して、弱音にこう言った。
ーーー気が済んだか。女々しい男だ。帰りたいのなら帰れ!弱いものはわが軍には必要ない。
それは総大将の亮へのねぎらいだった。
軍は進む、これからは隊をなして。
軍は進む、南の大将を目指して。
南の大将は「喜び」。
隊がそれぞれに何を思っているのかを把握することもなく、
軍は進む、隊をなして。
行け、銀河の行軍ははじまったばかりである、
鳩と蛇の御旗を胸に。
<<to be continued........///>>