銀河の行軍【無間地獄への再入獄】
弱音はまだ気持ちをくすぶらせていたい。その気持ちを自分で消化することもできずにいた。たしかに、恥というものを自分で消化していくのは難しいことだろう。
ーー総大将は何をしていたか?
そう感じて総大将に目をやったのは亮だった。それを総大将は予測していたから、総大将は亮をにらみつけた。そのにらみに亮は無間地獄を見た。恐ろしい、あの痛みと恥を思った。自分の小ささを思い出させられた。思い出さないように必死に二をしようとした、でも無駄だった。次から次へと湧いて出てくるのだ。蓋をしようとしてもどんどんとあふれかえってくる。水ではなく、まるで虫だった。蓋をして、すべてをせき止めるようなことではなく、蓋をしてもちょっとした隙間から這ってでてくるようなムカデのような長さがあった。
亮は独り言をいいはじめた「やめろ、やめろ…」
もはやうわごとだった。それを弱音は何事かと目をやった。弱音の心中というものはそれだけであって、亮を見下すチャンスだと思ったわけでもない。しかし、亮はといえばそんなことも考えられないほどに虫に侵食されていた。おかしなことに、弱音よりも弱い自分に成り下がっていたのだ。
弱音と目があった。
「なんだその目は!!!!!」
甚吾が驚いた。先鋒からしんがりまでの軍にはいくつかの隊がすでになされていたというのに、軍全体に亮の声が響いた。
おびえている声だと感じられたのは甚吾と総大将のみ、あとの隊は亮がまた何かに気づき総大将の代弁をしているのだと勘違いした。
「あの…」
弱音は言葉少なにおびえながらも亮を見上げた。亮は見下していた。弱音にの弱みを自分が正義によって裁いた、そんな自負があったからだ。
虫は沸きあがる。ムカデがサソリが、ゴキブリが、蠅も飛び回っている。
亮はおびえる。足に迫る虫に、飛び回る蠅に。
「お前は、あの時のことをきちんと昇華したのか?」
消すのではなく上げろという言葉を使った。弱音は縮こまってしまう。亮は納得させて、自分に偽善をまとう、偽善とも知らずに。
甚吾は総大将に目をやる。しかし総大将は強いまなざしのまま亮を見つめている。甚吾は悟った。早いとは思った、しかし総大将の意図であるなら仕方ないのだと思う。
「いえ、あの…」
弱音の恐れた声を餌に、ゴキブリはまた巨大化する。蠅は幼虫を生み、温かさが羽化させ、何倍にも命を生む。
亮はどうすることもなく、体にうごめく何者かを消火するために弱音をまたにらみつけた。悔しそうな眼を弱音は怒りであると自分を断罪した。裁かれているのだと、あの裁きが正しかったようにまた、この「お方」は俺を裁いているのだと。
亮はるつぼにはまり込んでいく。また無間地獄が見えてくる。落ちるかもしれない、そのギリギリのところにいる。亮は、また落ちるのだろうか。ギリギリだった。
湧き上がる虫と対峙すること、また無間地獄を見ること。
恐ろしい現実、軍はすでに隊をなしたというのに。
亮はすでに、正しさを示せるほどに自分を強くしたのに、
だから虫は、おのれの中のものではなく、この弱音が吐き出した、やはり正しくないものだから自分がなんとかしなければならない。
そう、自分がなんとかせねばならないのだと。自分が正義だ、なぜならあの時正しく裁判できたからだ。そうだ、俺は裁判官だ!
亮にまた無間地獄が迫っていた。総大将は助けてやることもできた。しかし、亮を信じた。
「おまえはもう帰れ!軍に弱さは必要ない!!」
それは総大将の言葉のトレースだった。
その瞬間に亮は再び無間地獄に落ちていった。
<<to be continued.....///////>>
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