銀河の行軍<脚力>
無間地獄に落ちていく亮はすでに自分が何をしてしまったかわかっていた。だからこそ落ちていく無間地獄が耐えられなかった。わかっていながらも、そして学んだことをまだ繰り返す自分が許せなかった。どうしてそんな阿呆なのかと自分を悔いた。悔いて悔いて自分を呪った。自分を許すことはせず、ただただ自分を痛めつけるようだった。されとて、その痛みの行く先を創造することもできなかった。無間地獄に落とされた理由はわかったのに、そしてそれを告解しているというのに、まだ速度をゆるめず自分は落下している。
亮は怒りを覚えた。自業自得であることを承知しながらの他責は亮を以前の何万倍も苦しめた。理由は単純である、理解ができないから。その行いに、自分の算段が正しいのに、現実が動かないどころか反対方向に進んでいるのだ。そんなことはあっていいはずがない。この世界はすべて思考で動き、その思考のすべては論理的になされているから、理解できないことはなにひとつないのだ。原則原理こそすべてであり、そこは完全なる秩序の世界ということを亮は以前の無間地獄で理解していた。
完全なる秩序の世界で、自分の論理性に相反するように、そう視点を集中させれば無秩序に世界がまわっているように見えたのだ。ゆえに怒りを覚えた。自分の思考も作戦も泡になる前に無に帰させるこの無間地獄においても怒りを止めることができなかった。
落ちていく過程で、亮は思った。
ーーー怒りがいけないのかもしれない。
怒りは人を制圧させ、生産性をそぎ落とす。
ーーーもしかしたらこの地獄は俺の怒りをとがめているのか?
混乱の最中、痛みに耐えられるはずもなく、亮はすぐに実行した。怒りを消すことのみに注力したのだ。怒りを消すことは案外簡単だった。眼前の敵から自ら退けばいいのだ。敗退ではないし、撤退でもない。切り落とすようなそんな行為に似ている。だから、屈辱もなかったしただただ自分の勝利を感じた。
しかし無間地獄への回転を伴った落下は一向に収まる気配がなかった。
思考せよ、思考せよ、この何もかもが混とんとせまる悪魔の前でもなお、思考せよ。
それは「声」だった。亮ではなく、思考ではなく、「声」だった。あの総大将の声でもなかったから、甚吾かと疑った。
耳を澄ます。
思考せよ、混とんの中でもなお希望を見よ。
それは…、だれの声だ。まず女か男かを聞き分ける必要があった。
思考せよ、お前のすべてをもって、耕作せよ。
かろうじて感じる、男だ。亮は男だと思ったから、そのまま意識を低音部に集中させた。すると今度はその声が聞こえなくなった。
ーーーまさか、女だろうか?
疑念をもってもう一度耳を澄ませた
思考せよ、思考せよ。
高音部を使ってもそれは男の声だった。確信を確認に移動させた。
ここまでの落下にかかった時代は2つ。200年以上の時間が過ぎていた。
されど、いまだにわかっているのは「男の声」というだけだった。
耳をすませば声は常に自分に語り掛けた。惜しむことなく常に求めれば声が聞こえた。
思考せよ、思考せよ、
求めれば与えられることに亮は安心感を覚えた。その男の声があの弱音ではないかと隕石が落ちた。脳天めがけて落ちてきた。亮はあまりの衝撃に怒りを覚えた。しかし、その瞬間、300年前の亮が言う「怒りはこの世界では自分を殺すだけである」。しかし次の瞬間声がした。
「思考せよ」
瞬間、声が男であり自分であると確信した。しか落下は終わることもなく継続されていった。男の声は自分であり、罪の正体は原理原則の論理性の元俺は認めている。それなのに、なぜ無間地獄を出ることができないのか?
思考する意義を亮は心得ていなかった。それが答えであるのに、亮は声が言う思考せよという意味を理解しているのに、自分の網膜をふさいだのだ。整合性や正義を求めているわけではない。ただその行為を評価されたかったのだ。それなのに…。
納得できなかった。
この世の神とは何者なのか。その何者かに俺は言いたい。どうして答えを最初から言わないのか。どうして最後まで俺を試すのか。どうして試すのか。
無間地獄を落ちる中、亮は泣いた。久しぶりに泣いた。以前の無間地獄への落下ではこんなにも嗚咽をもって泣くこともなかったというのに。この涙は何か。わからないなりに思うことがある。俺の足を、脚力をもっともっと強める必要がある。その強めた脚力で歩んでいかなければならない。そのために、俺はこの脚を強めていかねばならない。この無間地獄への落下は良いチャンスだ。来い、俺は、この落下する無間地獄を登っていこう。あきらめる?そもそも無間地獄を登れないと誰が言ったか?この世の原理原則にそんなことが記されているか。
ー笑みを浮かべた。
登れ!
銀河の行軍の道は険しい。
誰も歩めぬ道を歩んでいくんだ。自らの脚力のみが頼みとなる。だから脚力をつけろ。このチャンスを逃すな。
銀河の行軍の一兵卒たちの脚力は弱い。
女の総大将はそのことを知っている。なぜなら自分の脚力もまた弱いからだ。
亮のヒルクライムがはじまる。無間地獄を登るのだ、自らの脚力で。
<<<to be continued....////////>>>
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