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ザワつく前衛陶芸/走泥社再考

初めて訪ねた、ホテルオークラ近くの「菊池寛実記念 智美術館」。
展示も建物もすばらしかったんです!

1.@菊池寛実記念 智美術館

高級料亭のような趣がある

きくちかんじつきねん ともびじゅつかん と読みます。
「真珠婦人」の菊池寛(かん)かと思っていたら、寛実(かんじつ)でした。失礼しました。

公式サイトをざっくり要約すると、
現代陶芸のコレクターだった菊池智(とも)さんが、実業家であり父親の寛実さんの晩年の活動拠点だった場所に設立した美術館
--ということで、この名がついたそうです。
敷地内に瀟洒な西洋館があったのですが、あの建物が寛実さんの住居だったのかな?

詳しくはこちらをどうぞ↓


こちらの美術館、建物入口から美意識高めです。
「Musée Tomo」と書かれた小さな銘板があるだけ。
ケーキのおいしいカフェみたいだけど…? ホントにここから入っていいの…?
ドキドキしながらドアを開けると、別世界が。抑えた照明と豪華な内装にワクワクしました。トイレすらカッコイイ。

2.らせん階段を下りて

私は、チケットを提示した後、最初の作品に出あうまで少し距離がある美術館が好きです。
日常から展示の世界に入るための準備、切り替えができるから。
その点、こちらの美術館はパーフェクトでした!

展示室は地下。螺旋階段を降りていくのですが、この階段がすばらしい。
豪華な石(材質わからず)でできたツルツルに磨かれた美しい階段。靴の裏が皮だったら私が絶対滑るやつ。
そして、手すりはガラス製!(ガラス作家の横山尚人氏作)らせん状にゆったりと描くカーブの美しさよ。
おそるおそるガラスの手すりにつかまり階段を降りると、とても贅沢な気分に。
降りきったところで振り返ると、ガラスと壁の銀色の和紙に照明が反射して、曲線の階段がキラキラしています。この光景を見られただけでも、来てよかったと思いました。

階段は残念ながら撮影不可でしたので、こちらをどうぞ↓

3.走泥社再考-前衛陶芸が生まれた時代(後期)

階段を愛で、すっかりスイッチが切り替わったところで、いきなり出あったのがこちらの作品。

偽証/川上 力三(1966)

なんとまぁ、おどろおどろしい…。
ぱっくり割れた口から、ごぼごぼと溢れ出してきそうな灰色の粒。粒の一つ一つが嘘を表しているのでしょうか。
銅製の赤黒い壁が作品の白色を際立たせていて、まるで素知らぬ顔でしれっと噓をついている人間のようです。

ここから展示室に入ります

走泥社は1948年に京都の陶芸家、八木一夫、叶哲夫、山田光(ひかる)、松井美介(よしすけ)、鈴木治の5人で結成されました。同人は入れ替わりながらも陶芸家に限らない多様な人材が集まり、50年にわたり活動を続けます。いわゆる器ではなく、立体造形として芸術性を追求した陶芸作品を創り出し、その視点を日本の陶芸に根付かせたことは走泥社の功績といえるでしょう。

公式HPより抜粋

それまで「道具」であった陶芸を、「立体造形」という視点で作り上げたことから、走泥社の陶芸は当時「オブジェ焼」と呼ばれたそうです。
確かにどの作品も「オブジェ」として、確かな存在感で、まるで意志を持っているかのように佇んでいました。

馬/鈴木 治(1971)
くすぶる/緑川 宏樹(1975)
愛の為に/三輪 龍作(1967)
白い箱 OPEN OPEN/八木 一夫(1971)

ほとんどの作品が撮影可だったにもかかわらず、こうしてみると私が撮ったのは比較的大人しい作品。
他にもっと荒々しい作品がたくさんあったのですが、迫力と毒気にあてられてしまい、撮ることにまで気が回らなかったのでした。
ショーケースに入っていないこともあって、作品から出てくるエネルギーを直に受けてしまった感じ…。

今まで私にとって陶芸を鑑賞することは、心を落ち着かせることでした
ところが今回の作品群は、どれも観るほどにみぞおちのあたりがザワザワ、背中がそわそわしてくるんです。初めての感覚でした。

展覧会は前期と後期に分かれていまして、
前期は走泥社の結成から展開まで(1948-1963)、後期は「現代国際陶芸展」に影響を受け発展していった作品(1964-1973)が展示されたそうです。

私が観たのは後期のみでしたが、フライヤーで見ると明らかに作風が変わっています。前期も観ていたら、さらに面白かったかも。

前期はもっとあらぶっている

4.際立つ展示センス

どうですか、このセンス

そしてこちらの美術館、展示空間と展示のセンスが抜群にいいです(←えらそう)。ただものじゃないぞ、と調べてみたら案の定。

展示室内の設計・レイアウトは、米国人デザイナーのリチャード・モリナロリ氏(1951~)によるものです。(中略)
開館以来、作品を間近にご鑑賞いただけるよう当館では作品をケースに入れず露出展示とし、展示室のデザイン、作品照明と合わせ、当館ならではの環境を整え作品をご紹介しています。

公式HP より抜粋

智さんと出会ったころ、モリナロリさんはスミソニアン自然史博物館に専属していたそうです。
なるほど、他の美術館とは違う、展示の重心が低いような感じは博物館っぽさだったのかもしれません。(ほめています)

また、露出展示のおかげで、ケースに入った陶芸を観るときに感じる「裏側が観たい!」というストレスを感じることがありませんでした。これもうれしい。

作品一つ一つにスポットライトをあて、魅力を引き出す洗練された空間。陶芸を大切にしていることが伝わります。本当にすばらしかったです。

5.展覧会情報

●走泥社再考 2024/4/2-6/23 7/5-9/1(会期終了)

京都国立近代美術館で開催された時のレポが詳く書かれていたので、貼り付けておきます。(展示風景のちがいも興味深いです。)

美術手帖さんは智美術館のレポです。


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