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娘が欲しかった話
私にはふたりの息子がいる。
長男は3年目の医師でちゃんと自分で暮らせるだけの稼ぎがあり、すっかり独立している。なんなら誕生日や母の日父の日に豪勢なプレゼントをしてくれる。ありがたい。
もうひとりの次男は25歳になるが、自閉症と知的障害があり、就労支援施設を利用して工賃(雇用契約ではなく福祉サービスの利用者なので給料とは呼ばないんですって)一ヶ月2万円弱、と言ったところ。
でもまぁ障害基礎年金というものをいただき、グループホームに入って(週末は帰ってくるが)おこづかいもたくさん使うわけではないので収支トントンと言ったところだ。自閉と言ってもマイルドで温和でおとなしく、毎日ひとりでバスを使って通ってくれているし、まぁなんとかなるでしょう。
この春、長男は東京の大学病院に入局した。
医局に入るということは、まぁ師弟関係の濃い就職みたいなもので、医師として一人前になるために医局で数年鍛えられるわけだ。
実は地元の卒業した医大との二択だったのだが、彼にとってはどうしても地元から離れたい気持ちがあったようで、それは私としてもわからないではないのであえて何も言わず、最後は本人に決めさせた。
そりゃ地元に居てくれたらどんなにいいか!近くにいてほしい。他の親御さんならほぼ命令のようにそう言うご家庭もあるだろう。
でもそれが言えない事情がわが家にはある。
次男だ。
地元に残るということは、すなわち弟の世話をある程度託されてしまうわけで。
それだけは可哀想だと私はずっと思っていて、強がり丸出しと分かっていても「あなたはどこでも自分の好きなように生きればいい!」と笑って応援してあげたいんだよ。でもそばにいてほしいに決まってるじゃん。きっと本人にもそれはひしひしと伝わっちゃっているから、最終的に地元の選択肢も残したんだと思うし。
しかし彼の背中を東京に押したのは、彼女の存在だった。
彼女というのはどうやら医大時代からの部活の後輩で、もう付き合いは5年になるとのこと。その彼女が東京の病院で働いているらしい。どちらが先に東京に決めたのか、その点はちょっとわからないけれど、とにかく彼女となんなら一緒に住みたいらしいのだ。
彼女はこちらの生まれのようだ。ひとりっ子だという。大事なひとり娘を東京に出すなんてどんなに心配だったろうかと思うが、案外ご両親は放任主義のようだ。さっぱりしていてとてもいい。
そして私も思うのだが、将来どこに住もうが、人生で一度は東京で暮らしてみたいんじゃない?私だってずっと愛知県民だから、東京に住んでみたかった。若い二人がお互いに仕事しながら東京で暮らすなんて、本当に素敵なことだと思う。
GW前のこと、東京に引っ越しを済ませた長男が「彼女を紹介したいから一度連れて帰る」と言い出し、うちは上へ下への大騒ぎになった。
それまで本当に何も教えてくれなかった彼女について、何も知らないで会うのは失礼だから最低限のことは教えて、と写真など送ってもらった。
可愛い。
よくある「よくもうちの可愛い息子を💢」という嫉妬の気持ちは全くなく、本当に「選んでくれてありがとう」の気持ちだ。
ワクワクしてある程度家を整えて(がんばりすぎるとあとあと辛いよ、と先人からアドバイスを受けた)彼女と長男の到着を待った。
渋滞に巻き込まれて遅れて着いた二人は、本当に初々しく可愛くお似合いで、緊張してるだろうなぁと一生懸命気持ちをほぐそうとしたが、結構ニコニコとひとなつこくたくさんおしゃべりしてくれる。
一番驚いたのが
「お二人はどうやって知り合ったんですか?😊」と面と向かって質問されたことだ。
男の子って、うちだけじゃないと思うけど、親が男と女であるってことをものすごく嫌がりません?私の大好きな平井堅が鶴瓶の番組で両親の馴れ初めを聞いて「うわぁぁぁぁ聴きたくない!」って両耳を塞いでいたのを覚えている。男の子にとって両親は男と女であってはいけないのだ。
なのに初対面で馴れ初めをストレートに聞いてくるなんて!実に女の子だ!
実は私にも心当たりがある。
幼いころ両親の前で「パパとママはどうしてけっこんしたの?」と問いつめ、「ねぇチューして見せて!」とまでリクエストした、というのは両親の鉄板の笑い話だった。女の子は本当におしゃまだな。
私とパパは素直に彼女に馴れ初めなどを話した。
息子たちは「そんなこと初めて聞いた!」と目を丸くして聞いていた。
だって聞かれなかったもん。聞いてくれなかったもん。
一度それらしきことを話したら「うわぁ!やめてよ!」と遮られたことすらあるよ。覚えてないだろ?
女の子って本当に可愛い。
私はどんなに娘がほしかったか。
それを何度も何度も言っていたらしく、息子も彼女に「娘がほしいってずっと言ってるんだ」と笑って話していた。
ニコニコして屈託なくなんでも聞いてくる彼女をみて、本当に可愛いいい子を見つけてきたね〜って褒めてあげたい。
選んでくれてありがとう。
わが家へようこそ(気が早い)