データ好きの精神科医

データ分析が好きな精神科医が「抑うつの分布」の特徴について語っています。 内容はやや専門的です。タイトル数字の順番に読んだ方が理解しやすいと思います。 詳しくは下記の本を参照ください。 https://amzn.asia/d/97BZ7rQ

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最近の記事

ポジティブ感情の分布

以前の話はこちら。 https://note.com/memantine2000/n/n686ebd7dc8e8 #1 ポジティブ感情の分布 以前のnoteでCES-Dの抑うつ症状はDS分布に従うことを説明した(Tomitaka S. et al.2015)。図1は保健福祉動向調査(約32000人)における抑うつ感情の分布である。前述したように抑うつ症状の分布は共通する数理パターンが存在する。 CES-Dにはポジティブ感情が4項目が含まれている。ポジティブ感情とは「幸せ」

    • 海外研究者による抑うつの分布の論文

      本日は抑うつの数理分布に関するヘルシンキ大学の研究者の論文を見つけたので報告します。下記の論文です。 Talkkari, A., & Rosenström, T. H. (2024). Non-Gaussian Liability Distribution for Depression in the General Population. Assessment, 0(0). https://doi.org/10.1177/10731911241275327 この論文は一般

      • 分布モデルの研究をする理由

        心理社会医学系では分布の数理パターンに興味を持つ研究者が少ない。実際、心理尺度のスコアの分布モデルを探している研究者に会ったことはないし、そういった論文もほとんどない。さびしい限りである。 分布の数理パターンはその現象の仕組みを反映する。つまり分布の数理をパターンが解れば、その現象の基盤となる仕組みを理解できる。しかし、なぜか分布の形への関心は低い。 ではどんな研究が多いのかというと、何らかの比較を行い、違いを見つける研究である。私の印象としては世の中に発表される心理学の

        • 心理現象を測定 知能と正規分布

          1905年にフランス人の心理学者であるアルフレッド・ビネーは、弟子のシモンと連名で小児の知能テストを発表した。これは世界で最初に作られた知能テストだった。ビネーの知能テストは心理現象の数量化を試みた最初の取り組みの一つでもある。 ガリレオ・ガリレイの言葉に「計測可能なものは計測し、そうでないものは計測可能にしよう」がある。知能を数量化することにより近代心理学が始まった。 その後の研究により、知能テストの得点は釣り鐘型、つまり正規分布に似た形を示すことが明らかになった(図1

           笠原嘉の理論と抑うつ症状の回復

          #1 抑うつ症状の回復 -笠原の理論- うつ病が回復にともなって抑うつ症状は消失していく。しかしすべての抑うつ症状が同時に消失するわけではない。早く消失する抑うつ症状もあれば、なかなか消失しない抑うつ症状もある。 精神科医の笠原嘉は抑うつ症状が改善していく順序について次のように説明している(笠原嘉 みすず書房 2011)。笠原は三つの大きなカテゴリーに分けて抑うつ症状の消えていく順序について説明を行っている。うつ病の回復過程ではまずは「不安・イライラ」が改善し、次に「抑うつ

           笠原嘉の理論と抑うつ症状の回復

          心理学を支える最大の仮説

          #1 心理学における尺度 科学では対象を計測するための物指しが必要がある。そして心理学研究における物指しは評価尺度である。実際、心理学において学術論文の9割以上は評価尺度を使用していると思う。現在の心理学は評価尺度のおかげで成り立っていると言っても過言ではない。 心理尺度には測定したい対象に応じて、抑うつ評価尺度、幸福度評価尺度、知能評価尺度、といった様々なものが存在する。しかしそれらには共通するルールが存在する。それは、評価尺度の総スコア(項目スコアの和)をその心理現象

          心理学を支える最大の仮説

          なぜ抑うつ症状の分布は数理パターンを示すのか

          #1 抑うつ症状の分布はDS分布をしめす 以前のnoteでも述べたが、大規模集団において抑うつ症状は共通する数理パターンにしたがう。今回はなぜ抑うつ症状は共通する分布モデル(DS分布)にしたがうのか、説明したい。 tちなみにこれまで一般人口の抑うつ症状の分布の数理モデルに関する報告はなかった。しかし分布モデルの名称がないと話を進めづらい。したがって、抑うつ症状の分布モデルを「DS分布」(Depressive symptom distribution)と呼ぶことにした。 ま

          なぜ抑うつ症状の分布は数理パターンを示すのか

          指数分布と抑うつの経過 

          気分が不安定の人を日本語では気分屋、英語ではムーディ(moody)という。洋の東西を問わず、「気分」という言葉は変動するイメージを持つ。 気分が不安定なイメージを持つのは、そもそも気分が状況に応じて変動するからだろう。人は嫌なことがあれば憂うつになるし、良いことがあれば気分が高揚する。。これは万国共通の認識だろう。もし人の気分が安定した性質なら、気分屋(moody)という言葉は落ち着きを表現する言葉になっていたかもしれない。 人の気分は状況に応じて変動する。それにもかかわ

          指数分布と抑うつの経過 

          なぜうつ病の多い年齢は曖昧なのか?

          人はどの年齢でもっとも抑うつ的になるのだろう? この問題に関しては、これまで膨大な数の論文が発表されている。しかし困ったことに、抑うつと年齢の関係は論文によって異なる。人は中年期に最も抑うつスコアが高くなるという論文もあれば、青年の抑うつスコアが最も高いという報告もあり、中には高齢になるほど抑うつスコアが高くなるという論文もある(Tomitaka S, et al. Front. Psychiatry 2018)。つまり抑うつスコアと年齢の関係は再現性があまりないのである。

          なぜうつ病の多い年齢は曖昧なのか?

          日本の抑うつ分布も安定している

          前回の話はこちら。米国での抑うつの分布は20年近く安定していることを説明した。 https://note.com/memantine2000/n/n816fd9c8ace9 1)国民生活基礎調査 米国だけでなく日本の結果を知りたい人もいると思うので、今回のnoteでは日本の調査結果を説明したい。ちなみに日本で長期的に国民の抑うつのレベルの行政調査としては、国民生活基礎調査がある。実はこの調査以外に日本で全国レベルで行われた抑うつの長期データはない。逆に言えば、もし日本人の抑

          日本の抑うつ分布も安定している

          なぜうつ病は増えたのか?

          今回のnoteでは「時代とともにうつ病は増えているのか」という問題について考えてみたい。この問題を理解するには、最終的には分布の変化について知ることが重要になる。 #1先進国でのうつ病の増加 ご存じの方も多いと思うが、近年先進国ではうつ病で通院する患者が大幅に増加した。厚生労働省の調査によると日本では99年から2017年までの間にうつ病の通院患者が24万から97万へと約4倍に増加した。米国でも1987年から2007年の間にうつ病の通院患者約4倍に増加している。こういったうつ

          なぜうつ病は増えたのか?

          なぜ抑うつは指数分布に従うのか?

          前回の話はこちら。 https://note.com/memantine2000/n/n253ad83e88e5 前回は抑うつスコアが指数分布に従うのことを説明した。今回は指数分布が成立する仕組みについて述べる。 #1 非時間軸の指数分布 指数分布といえば、時間を横軸とした指数分布がよく知られている。たとえば放射性物質の放射能の減衰は指数分布をしめす。統計学を勉強したことのある人なら、来店する客の時間間隔を思い出すと思う。このように、時間を横軸にする指数分布はよく知られて

          なぜ抑うつは指数分布に従うのか?

          抑うつスコアの数理パターンの再現性

          前回の話はこちら。 https://note.com/memantine2000/n/n03bae4d763d0 今回は抑うつ評価尺度の総スコアが指数分布に従うことの再現性について説明する。 #1 一般人口における指数分布の再現性 抑うつスコアの分布が指数分布に従うことについては、これまで日本で行われた二つの行政調査(保健福祉動向調査、国民生活基礎調査)、米国政府による三大行政調査(NHIS、BRFSS、NHANES)、英国やアイルランドにおける行政調査、また社会学で有名

          抑うつスコアの数理パターンの再現性

          抑うつは指数分布に従う

          今回は、抑うつ尺度の総スコアの数理パターンの話である。分布の数理パターンを調べるには、なるべくサンプルの多いデータセット(できれば数千以上)を複数比較することが大切である。サイズが大きくなるほどデータはあるべく分布に近づくし(大数の法則)、複数のデータセットを比較した方が数理パターンを見つけやすいからである。 #1 抑うつスコアの分布の数理パターン  K6という抑うつ評価尺度のデータを用いて、抑うつスコアの分布の数理パターンを調べた。K6は日米で行われている大規模な行政調査

          抑うつは指数分布に従う

          抑うつ症状の分布モデルの再現性

          前回の話はこちら。 https://note.com/memantine2000/n/n686ebd7dc8e8 #1 抑うつ症状の分布の再現性 これまで日米欧のいくつもの大規模データを用いて、抑うつ症状の項目反応の数理パターンの再現性を確認した。すべてを紹介できないが、興味深い知見が得られたデータを紹介したい。 米国政府は国民の生活様式を把握するため、毎年BRFSS(Behavioral Risk Factor Surveillance System )という公的調査を

          抑うつ症状の分布モデルの再現性

          抑うつ症状の分布の数理パターン

          今回は、抑うつ症状の大規模データを観察した結果、分布の数理パターンが見つかった話である。 #1 日本における抑うつ症状の分布 抑うつ症状とは、抑うつにともなって心身に現れる様々なのことである。抑うつ気分、不安、意欲の低下、自殺念慮といった心理的なものから、不眠、食欲低下、疲労感といった身体的なものまで様々なものがある。 世の中にはこういった症状をまったくもたない人もいれば、軽い抑うつ症状を時々認める人もいる。中には重い抑うつ症状が毎日のように続く人もいる。 では社会に

          抑うつ症状の分布の数理パターン