見出し画像

【怪談】#1 きんぎょのぼり

この話は実話を元にしていますため,、特定を避けるために脚色などを施していることがございます。


私は小さいころから怖いものが好きで、親戚の集まりの際などにいろんな人に「怖い話を聞かせて」とよくねだっていたんです。

その中でも一番印象的な、叔父の話をご紹介したいと思います。

叔父はいわゆる入り婿、というやつで小さい頃は山奥の小さな集落に住んでいたそうなんです。
そこには、一風変わった不気味な習慣があったんです。

「きんぎょのぼり」。あなたは知っていますか?

こいのぼりは皆様ご存じだと思います。それの金魚バージョン。
鉢植えくらいの大きさの「きんぎょのぼり」を玄関前に年中置いておくのが、小さな集落の中では当たり前だったんです。赤い金魚が風にそよそよたなびいてるのは綺麗だな、と当時の私は思っていたのですが、叔父はしきりに不気味な、不気味な、と繰り返していました。

その理由はどうしても教えてくれることはなく。その後親戚の集まりは少なくなっていきました。

当時小学生だった私は高校生になり、いとこだったか忘れてしまいましたが、誰かの結婚式で叔父と再会しました。彼の大きな手のひらは変わっていなかったのですが、少ししわの感触が増えたのを今でも覚えています。

さて、「きんぎょのぼり」の話に戻りましょう。
結婚式の二次会で少し酔っ払った叔父に頼み込み、もう子供ではないからとあの奇妙な習慣について話してもらいました。

家庭内の女性が妊娠した際に「きんぎょのぼり」をひっくり返す。

これが集落内でのルールだったそうです。
金魚が腹を見せていると、隣の家が赤飯や新鮮な野菜をもってきてくれたり周囲の人が車を出してくれたりと何かと気にかけてくれるそうです。なので叔父はあけすけではあるけど悪くはないルールだ、と思っていました。

しかし、ある事件を経てこれは別の重大な意味があるのかもしれない、と叔父は思いなおしたそうです。
事件のきっかけは姉の妊娠でした。当時叔父の姉の素行はお世辞にもいいとは言えず、夜家を出ては朝に帰ってくる。そんなことを繰り返していたそうです。夜に姉が出ていくときには両親との口論が絶えなかったそうです。
そんな中で発覚した妊娠。言い方は悪いですが、望まれたものではありませんでした。両親と姉が話し合った結果、堕胎という決断に。
前述したとおり叔父の集落はとても小さいので、人目を気にした両親は「きんぎょのぼり」をひっくり返さず姉の妊娠を隠し通すことに決めたそうです。

それから、奇妙なことが起こり続けました。

誰もいない部屋から足音がしたり、触ってもいないのに皿が落ちたり…と起こり続けました。
両親はあまりにも変なことが連発するので、堕胎前だが水子が恨みを抱いているのかもしれないと思ったそうです。お寺にお祓いをお願いすることになりました。

慌ててお寺に連絡し、お坊さんをお寺に迎えに行くことに。
しかし、ぬかるんだ山道の関係でお坊さんを迎えに行くには一日かかってしまいます。

「それじゃあ、行ってくるから。…あんたはおとなしくしてるんだよ。」

両親は姉と叔父に留守を任せ、夕方ごろに家を出ました。

そして夜。
叔父はテレビを見ながら夕食を食べていました。

すると、物音。続いて、足音。
一瞬驚きそちらのほうを見やると姉。彼女は懲りずに外に出ようとしているのだとすぐに悟りました。

「ねえちゃん、さすがに今日はでんといたら?夜だし雨降りそうだよ」

そうしてシャッとしまっていたカーテンを叔父は開きました。開けたんです。
そうしたら、目が合ったそうなんです。

誰かと目があった。その思いだけが先行していましたが、そのご恐怖で呆然としてしまいました。

目が合ったのは、男性でした。多分。
うつむいていて顔はわからないけど身なりは普通。それでもひたり、ひたりと足音が聞こえます。

この足音が明らかにおかしい。

だって、下は家の庭の人工芝。…ひたり、ひたりなんて言うわけもないんですから。

叔父は何も理解が追い付かない中、少しづつ近づいてくるそれをただただ眺めていました。

叔父ははっと気づき、あわててカーテンを閉めました。姉は

「雨なんて降らないし、今うるさいのいないんだから_」

と今にも玄関の扉を開けようとしていました。

「やめろ!!」

この時初めて姉に怒鳴ったよ、と叔父はつぶやいていました。

その後叔父はすごい剣幕でまくしたて、姉は普段と違う様子を感じたのか外出をあきらめてくれました。叔父はありとあらゆる電気をつけたリビングの真ん中で震えながら、一睡もできず夜を明かしたそうです。

その後両親が帰宅。お坊さんがお経をあげて、その三日後には姉は手術を行いました。それ以来奇妙な現象はおこっていませんし、あれを見たことはありません。
両親と姉は水子による恨みが起こした現象だろうと言っているようですが、叔父は信じられないらしいです。
この集落で、あれを見たという人には会わなかったらしいです。ほかの家と違う点はただ一つ。「きんぎょのぼり」です。

いまでもその習慣の正体はわからずじまいですし、市の移住プロジェクトやらなんやらでだんだんすたれてきているとのこと。


腹を見せた金魚は、何かの身代わりにでもなっていたのでしょうか。それとも、何かの目印だったのでしょうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?