NTM症の最新知見
NTM症は非結核性抗酸菌症の略である。結核とは違い他社に感染させるリスクはないため隔離は必要ないが、難治性で発症すると生涯にわたって付き合うことになるしんどい疾患である。NTM症にはいくつかあるが最も多いのが肺MAC症である。ここではMACとはM.abium complexのことでabium属の抗酸菌を主とする菌群による感染である。
日常生活の中でも水回りや土譲に存在する常在菌である。通常は免疫力の落ちている方や肺疾患のある方、喫煙者などがハイリスク群であるが最近は中高年層の女性に多い傾向がある。中高年の女性は台所やお風呂、鉢などで植物を栽培したりしていることも多く水回りに接する機会が長期間に及ぶことも原因かもしれない。
以前の記事でも書いたがこれらは現状では完治を目指す疾患ではなく菌と付き合いながら延命を目指すのが現在の治療である。軽症の方では比較的長期間にわたり菌がいない状態にすることはできるようだが、中等症以上になるとなかなか菌はいなくならず難治性となることが多くいい状態と悪い状態を繰り返して徐々に悪くなっていく傾向にあるようだ。
この前も30代で肺MAC症で亡くなられた方がいた。その方は20代のころから10年以上闘病されていたらしい。若い方でも命を落とすことのあるこの疾患にも最近従来の治療以外に新しい試みがされている。
その一例がリポソーム化アミカシン吸入(商品名:アリケイス)である。アミカシンというアミノグリコシド系抗菌薬をリポソームという脂質の膜で覆い、細かい粒子としそれを吸入することで肺組織や菌に感染したマクロファージに直接アミカシンを届けることで選択的に働き効果を発揮する。副作用も従来の腎障害や神経障害は出にくいよう。適応は従来の治療に抵抗性(6ヶ月以上陰性化しない)の難治性肺MAC症となっている。
基本的に従来の多剤併用化学療法にプラスするが薬価が1本590mg辺り42,408.40円と高額で、他の治療と同じように1年以上という長いスパンで使用する必要があり治療費がかさむのがネックだが、菌の陰性化率を上げる効果が出ており選択できるのであれば6ヶ月以上陰性化しない難治例の治療に光が見えるかもしれない。
もう一例、注目しているのがアジスロマイシン(AZM)の肺MAC症に対する例外的な適用の追加である。アジスロマイシンは通常7日間以上の投与はせず、多くは3日間500mg服用するのが一般的である。今まではこちらに適応が限られていた。たが海外では現在治療のキードラッグであるクラリスロマイシンの代わりにアジスロマイシンが使用されているのが主流であり、これに対応するためには長期投与を可能にする必要があった。今回肺MACに限り250mg/dayで長期投与可能とする適応が追加されておりこちらも、今後治療の主流になる可能性がある。
その他に治療薬の開発をしているところがあればぜひ知りたいものである。先の話にはなるがこの肺MAC症への治療薬の開発・研究への支援のクラウドファンディングが企画される可能性がある。こちらの動向を見守り始まればぜひ応援したい。
自分がこの疾患に向き合う機会を作ってくれた方との御縁を大切に近い未来に治療法が確立され、安心して治療できる世界を作っていけたらよいなと思った。