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カルミヤの花
庭の石灯籠の下のカルミヤの花が咲いている。
花の形を見ていたら、鳥の雛たちが親から餌を
ねだる顔一杯に開いた口の形に見えてきた。
先週までその石灯籠の中にはシジュウカラの
親子がいて、子育てして巣立って行った。
3月末だったろうか、石灯籠の丸穴に
シジュウカラが入って行くのを見かけて、
今年も来てくれたと家内と歓喜した。
それから親たちは、巣作りの小枝を咥えて
出たり入ったり忙しくしていた。
4月の半ばには、雛たちのか細い声が微かに聞こえるようになってきた。
やがてその声はドンドン大きくなって5,6羽は居るだろと思われた。
鳥類学者は、シジュウカラは20程度の鳴き声を持っていて
700もの文章で伝達をしているらしく、
原初の言語の手掛かりになると研究しているという。
5月になると、親達は15分毎に巣穴を出入りして餌を運んでいる。
心持ち痩せてきたのが気掛かりになる。
その健気な姿を観ていて、自分たちも子育ての頃はあのように
夢中で働いたものだと感慨に浸った。
庭は朝から陽が暮れるまで雛たちの餌を求める声に満たされていた。
親子を脅かしてはいけないと、雨戸の開け閉めにも気を遣い、
梅の実の取り入れ作業を中止した。
朝顔につるべ取られてもらい水という川柳を思い出す。
庭に出ることはせず、ガラス戸越しにひたすら様子を眺め、
たまにやって来る野良猫を追い払った。
5月の半ば頃だった。鳴き声がピタッと消えた。
石灯籠の丸穴にぽつりぽつりと白い糞を残して巣立って行ったのだ。
全員揃って無事に行ってくれと青空を見上げた。
庭は元の静けさに落ち着いた。なんとも云えない寂寞感がやって来た。
私たちの育てた子供達が社会に巣立って行った思い出と重なるのか、
なんとも云えない喪失感もある。
また来年も、きっと来てくれよなあ。