豊島線 三分間の妄想
池袋駅で豊島園行きに乗ると
練馬駅で所沢方面に向かう本線から分かれて
単線の豊島線をゆく。
ある日、勤め帰りにこの豊島園行きの
三両目の車両に座っていた。
座席はほぼ埋まっていたが、練馬駅で本線に乗り換える乗客が
ゾロゾロと降りて行き、この車両に残ったのは、
たまたま私と隣の席に座っていた若いOLさんだけとなった。
広い車内で二人だけで隣り合って座っている。気まずさを覚えた。
他の席に移ることはできる。
でも何かそれは失礼な感じがするので動かないでいた。
OLさんにしても、隣のむさくるしい初老の男から離れて、
広くなった他の席に座ることもできるが、それはあまりに
あからさまで失礼になると考えているのだろうか
そのまま動かないでいた。
豊島園の駅まで2,3分のことだが、長く長く感じた。
私に恥をかかせないよう気遣いしてくれている
この女性の優しさを有り難いと思いだした。
横を向いて挨拶したい気持ちを抑えて、
ひたすら前を向いていた。
窓ガラスに映る女性の姿は清楚で、うつむき加減で
そして、なんと頭が私の方に傾いているではないか。
まんざら、嫌ではないらしいと勝手に思ったりした。
きっと、早くに父親を亡くして、
私と父親をダブらせているのかもしれない。
そう思うと不憫で慰めてやりたい衝動に駆られた。
列車がとうとう豊島園のホームに滑り込みドアが開いた。
女性が先に降りて、私の前を改札口に向かって歩いて行く。
少し内股で和服が似合うだろうと想像した。
改札口を出るとそのまままっすぐ歩いて行った。
私は女性の後ろ姿を振り返りながら左の道を行った。
そして心の中で、あの若い女性のこれからの人生が
どうか幸せであって欲しいと祈ったのである。