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親の賢さ
子供の頃、父と銭湯に行った時のことだった。
湯船で十分に温まって、上がる片付けを始めた。
手拭いを濯ぎ、石鹸を青い石鹸箱に入れる ところだった。
石鹸をカラン(蛇口)のお湯で流すがヌルヌル が
どうしても取れない。
それを横目で見ていた父は
「水の方でやってみな」 と言った。
冷たい水だと確かにヌルヌルがなくなって
青いケースにスッキリと収まった。
その時、どうしてそうなるのか判らず、 ただ父の賢さを思った。
その父は21年前に83歳で亡くなった。
70歳を超えた今でも、銭湯に行って、石鹸を
仕舞うとき、 この一瞬のやり取りを
鮮やかに思い出す。
親の賢さに触れた時、子供は誇らしいものだ。
はて、中年になった我が子たちは
そんな「賢さ」を どこかで感じてくれた
ことなどあっただろうか。