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おんぶに抱っこにかざぐるま

夕げに家族とテレビドラマを観ていて、涙がこみ上げてしまって、
両親や子供たちの手前恥ずかしく、中座してトイレに
駆け込んだことがある。
武田鉄矢さんが若いお父さん役だったから相当に昔のことだ。
 
ドラマの中で、お母さんが亡くなってから
1年が過ぎようとしていた。
小学生の男の子は気丈にして、いつも通り学校に行き、
友だちと野球に頑張ってきた。
これとは対照的にお父さんの方は落胆しメソメソして、
子供に憚ることなく悲しみを嘆いてきた1年だった。

一周忌だからと細やかに二人で供養の食卓を囲んだ。
お父さんは生前のお母さんの姿を見ようと
封印してきたビデオを見始めた。
そこには男の子に授乳しているお母さんの幸せそうな横顔があった。
風呂から上がった裸ん坊を追いかけて、タオルで抱き包むお母さん、
新入学に校門の桜の下で並んだ着物姿のお母さんの姿が
生々しく映し出される。
その時だった、男の子は抑え込んできた悲しみを
解き放つかのようにむせび泣いた。
お父さんはその様子に驚いて、息子のこれまでの健気さに
感銘してさらに号泣する。
 
母は身を削って子を産み育ててゆく、いつでも我が事として
喜び悲しみ、ひたすら無事の成長を願う。
「母の愛は海より深い」は有名な名言だが、
どうもわざとらして、しっくり来ない。
母の名言集を何十篇も読んでみるが、
これだというのが見当たらない。

きっと言葉では表せない感情の領域だから、
母の愛などと言葉にしたとたん、瞬間冷凍されて
理性の領域に静かに収まってしまうからなのだろう。
徒労とは思ったが、誰の心にもある無償の愛への感謝とか
慈愛への懐かしさの感覚を表す言葉を夢中で探してみた。
そうしたら、あったあった!
「おんぶに抱っこにかざぐるま」 
どうだろう、母の愛のなま暖かさを味わえないか。

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