家長の権威

勤めから帰宅した父に母が言い訳をしているのが聞こえる。
私が夕刊の記事を切り取ってしまったのである。
厳格な父はまだ読み終わっていない新聞の折り目に
乱れがあるだけで不機嫌になった。
これは、相当な叱責になると覚悟した。
 
やがて、その新聞をぶら下げて父が私の部屋に入って来て
セロテープで修理された箇所を指さして、
天体に興味があるのかと、意外にも穏やかな調子で聞いた。
それは日食の原理を説明した記事だった。
うんと答えると、父はそのまま踵を返し食堂に戻っていった。
 
詰めていた息をふうーっと吐いて、ほっとすると同時に、
いつか大人になったら自分の新聞を取って、
自由に切り取ってスクラップブックを作るんだと心に決めた。
それから６０年も経つというのに、
今でも新聞の気になる記事に鋏を入れると
その事をふっと思い出す。