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ユニフォームの魔術
交差点で自転車に片座りしている婦人警官が通行人に目を光らせている。
豊かな体型でサドルからお尻の肉が溢れ出ている。
帽子のつば越しに、厳しい眼差しでジロリとこちらを見るので、
思わず目を逸らしたが、チラリと顔を見ると、
可愛らしい目鼻立ちの女の子で意外だった。
指名手配の男を捜しているに違いない、そういう目つきだった。
ビジネススーツを着た中高年の男性が、駅に行く道を彼女に尋ねている。
すると本来の可愛らしい笑顔で、駅の方向に指さした。
よく少女がやるように、人差し指に力が入って幾分反っている。
職分として警官を装っている、ユニフォームの力は絶大だ。
社会的な使命を果たすという意識を確実に高めている。
この健気さに、頑張ってねと心の中で敬礼した。
大腸検査でお尻に大きな穴の空いたパンツでベットに寝かされ
待たされたときのことだ。
冬の最中のことで足が冷たくなって、やむなくナースコールで呼んで
事情を話すと、ピンク色のユニフォームを着た看護師さんが
微笑みながらやって来て、毛布で足を包んでくれた。
その包み方は、まるで赤ちゃんを扱うようにあくまで丁寧で優しかった。
病気の不安の中でどれだけ助けられたことだろうか。
検査が終わって病院を出る時、先程の看護師さんが
自転車を押して帰る姿があった。
私服になると普通の女性で、さっきのマリア様のような
崇高さが無くなっていた。
ユニフォームの魔術ということだろう。
サンバカーニバルの楽団員としてパレードするとき、
同じ装束でいるとなんとも云えない心地よい一体感に包まれる。
古代の頃から同じ毛皮を着て、顔に色墨で同じ模様を施し、
狩りにも、戦いにも、祭りにも心を一つにしたから
人は生き抜いて来れたのだろう。