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伽羅木に花かんざし

台風の去った朝、庭に出ると
伽羅木に濃いピンク色の可憐な花が咲いていた。
この常緑樹は3月頃にピンク色の小粒な花を付ける筈だが
肥料が悪いのか日当たりが悪いのかこれまでに咲いた試しがない。
それがこの9月に花を付けるとはこれ如何に。
よく見ればなんのことはない、
この木の上に枝を広げたサルスベリの花が散り落ちて、
ひとときの華やぎを見せているのだ。
ふっと大昔に見たモノクロ映画のワンシーンが目に浮かぶ。
芸者になって東北の山深い故郷に帰ってきた娘が
父母から下賎ななりわいだと疎まれ、悲痛な想いで江戸に戻ってゆく。
田んぼのあぜ道をうつむきトボトボ歩いている。
後ろから「ねえちゃ~ん!」と野良着の年若い妹が追いかけてくる。
向き合った姉妹の眼には涙が潤む。
優しく妹を引き寄せて、姉は自分の頭に刺していた花かんざしを取って、
妹の髪につけながら「おとさん、おっかさんを頼むよ」と耳元で囁く。
田舎娘には不釣り合いなキラキラした花かんざしで飾って貰うと、
野良着の襟元を整えながら、ポッと頬を染めて年若い妹が女を見せる。
そんな哀しくも微笑ましい姿を思い浮かべた。
 

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