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サルスベリ
なにか褒められるような事をした訳でもないのに
ヒンヤリとした涼やかな風がご褒美のように贈られてきた。
その風が、桃色のちりめんを揺らす。
この夏の猛暑ぶりには辟易して、
人に夏好きを 公言してきたことを撤回せねばなるまい。
サルスベリは英語でクレープミルトル。
花を虫眼鏡で見てみると、可憐なちりめん・クレープ織りのようで、
小さかった娘が夏に着ていたブラウスのフリルの半袖を思い出す。
別名、百日紅ともいい、夏の始まりから秋の中頃まで
その名の通り 100 日咲いている。
先の大戦の終戦の日は8月15日で、終戦前後の苦しい日々、
人々はうつむきながら暮らした。見上げるとこの花木は華やかに満開。
重々しい気分と不釣り合いで、反って反発を覚えたそうである。
花を愛でるには、それ相応の幸せの気分がないと成り立たないのだろう。
百日紅の「百」は長寿を思わせ瑞相だ 。
それが「猿滑り」とは、この可愛いらしい花には似つかわしくない
無粋な名と思うが 、ニヤリとさせられる言い伝えもある。
鯉は見事、滝を登れば龍になる、同じように
猿がツルツル滑る木肌を耐えて、百日紅の木を登り切ると 神になるという。
なるほど、神という字の示偏を取ると申(さる)となる。