見出し画像

伝えたい思い

地下鉄永田町の駅を出て、国会議事堂を右に見て 
数分歩くと左手に国立国会図書館がある。

日本一の蔵書量で4,500万点という。

この世の知性が充満したこの空間に浸ると、
なんとも云えない充足感で深呼吸したくなる。

英国の大英図書館に至っては、七つの海を制覇して
有史以前の文献も含めてよくぞ掻き集めたり、その数1億7,000万点。

獲物を追い詰めて、お前あっち、俺こっちからと
声を掛け合ったところから7万年、発達してきた言語世界。

図書館にズラッと並んだ本を見ると、仲間に思いを伝えたい、人の気持ちの激しさは想像を絶する。

1957年、第一次南極越冬隊が昭和基地で極寒の中、観測に明け暮れた。

何から何まで初めてのことばかりで、設備も不十分で
命の危険が隣り合わせの日々だった。

とりわけ本国との通信技術は、現在とは段違いに低く
14,000キロの彼方からの電波はビービー、ガガガーの
雑音の狭間から微かに聞こえてくる呼び声に
全神経を集中して耳をそばだてた。

こんな最中、隊員の家族との交信など許される筈もなかった。
それでも、モールス信号での最小限の打電の機会があった。

隊員の新婚の妻からの渾身の思いの一言が南極に確かに届いた。

それは、「あ・な・た」の三文字だった。

 


いいなと思ったら応援しよう!