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何故かリアリティーは好まれない

20年近く使ってきた書斎の小型スピーカーがチリチリと
異音が出始めたので自分へのクリスマスプレゼント
ということで、上級の機種を注文した。
 
ワクワクしながら数日待って、それが今朝届いた。
早速聴いてみると、期待以上にリアルな音場が広がる。
たまたま楊興新のCDを掛けたら胡弓の音が胸に響いて泣いてしまった。
 
タイムドメインのスピーカーは独特で、創業設計者 吉井啓之氏の
強い信念から生まれた。
録音した時の原音を忠実に再現することにグッと絞って
余計なことをしない。
スイッチのつまみは音量しかない。
応接間にあるオーディオ・セットにあるような高音、低音の調節の
つまみやラウドネスも何もない。

「俺が作った料理にソースやケチャップやスパイスをパラパラなんて
止めてくれ」と言っている頑固シェフと重なる。
 
プロの音楽家の間での評価は高く、有名な語り草では、
あのビル・ゲイツ氏が自宅の高額なオーディオ・セットより
良いかもしれないと感心したそうである。
イコライザやエフェクトで自分好みの音を楽しむスタイルが
主流の業界にあって孤高の存在ということらしい。
 
千葉県緑区にあるホキ美術館に行くと超写実の絵画を
お腹いっぱい観られる。
 
写実画は写真が出来てから存在価値を失い、
心情を描き込む印象派が主流になって、芸術的な評価が下がり、
画壇からも距離を置かれてしまった。
 
この美術館の作品は精密に撮った写真から細部を徹底的に
描き込むことで圧倒的なリアリティを見せ、
心に刺すような力がある。
絵の中の裸婦と目が合って、気まずさから
目を逸らしてしまう程だ。
モデルの着ているセーターの編み目一つ一つを丹念に描く
執着に頭が下がる。
ピカソの抽象画のような筆の遊びは一切排除されている。
 
音にしても絵にしても、リアリティは意外に受けない。
人は現実を直視するより、好みの色を上乗せする方が
心地よいのだろう。



 

 

 

 

 

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