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命への想い
京急線青物横丁駅を降りて旧東海道をしばらく歩くと右手に 品川寺(ほんせんじ)がある。
平安時代、弘法大師が祠を設けてから1300年の古刹で、 品川区の地名の由来であるという。
寺の入り口左側には、江戸六地蔵第一番がでんと鎮座している。
中庭の鐘楼の奥にひっそりと佇む観音像があり、慈愛のまなざしの 下に馬や犬や鳩が寄り集まっている。
箒で掃いている寺の女性にその動物たちの事を訊いてみると 戦争で命を捧げた軍馬であり、軍犬、伝書鳩だと答えてくれた。
警察犬の供養塔、動物実験の犠牲となった小動物の供養塔、 築地の魚市場には魚介の供養塚、捕鯨の鯨の供養塔。
えっと驚くのは、殺虫剤工業会が行う虫供養式もある。
街道の脇でよく見かける馬頭観音像はどれも丸く風化しているが、これも 人や荷物を運んだ馬たちを弔う人々の思いである。
渋谷駅で既に他界した主人を健気にも出迎え続けた忠犬ハチ公も 人々の愛着の籠った供養像なのか。
生き物ばかりではない、お針子さん達が行う針供養、鋏供養に鏡供養、
料理人が行う包丁供養。また人形供養や写真供養もある。
命あるものだけでなく、魂の籠った物も、恩に着るものへの畏敬に
手を合わせ瞑目するのが、 この国の人々の德である。