
花売り
今朝、堀切の花問屋で仕入れて、ここ日本橋で店を張ったところだ。
お江戸六花って売れ筋があってな、椿、芍薬、花菖蒲、朝顔、山茶花それに菊のことだ。
今日は秋彼岸だからもちろん菊で大勝負だ。
俺たち花売りは、歌舞伎にも出て来る粋なお兄さんてことで
娘達に持てるんだぜ。
一服しながら魚の動きを見ていい釣り場を探す。
もうそろそろ伊勢屋の女中のお千代ちゃんが、俺の花を買いに来る頃だ。
どういう訳か、お千代ちゃんは俺のところばかりにやって来る。
歳は17か18ってとこだろう。花で云えば、蕾が開きかけて初々しい。
俺には女房も子供もいる身だから憚れるが、お千代ちゃんが来ると
胸が高鳴るのはどうしたもんか。
あの綺麗な娘も咲いて咲いて、いつか花のように枯れて行くんだろう。
そう思うと今の華やかさが哀しく見える。
ほーら、噂をすればなんとやら、にっこり笑顔でお出ましだあ。