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セピア色の写真は悲しみの時間
友人と奥さん共々長い長いお付き合いがあったが、
6年前にその友人が69歳で亡くなった。
哀しみはもちろんのこと、強い喪失感に襲われた。
奥さんは友人の死を未だに受入れられない。
遺品もそのままで、部屋は時間が止まってしまっているらしい。
サリナ・ジョーンズのCDの中の「JESSE」という曲が気に入って
時折出しては聴いていた。
痴話喧嘩でジェシーが出て行ってから数日して、
もう私は許しているから帰ってきてよ、というアメリカの細君にしては
しおらしい歌だと思い込んできた。
また気になって聴き直して歌詞をよく読んでみて、
思い違いの甚だしさに気付いた。
愛する人の写真がセピアに褪色するほどの時間、
戦場からの無事の帰還はないことを頭では分かっていても、
心が受け入れられない女ごころがやるせない。
シンガーソングライターのジャニス・イアンの作品で
ヴェトナム戦争の頃に歌っていた曲だった。
余りに優しく切ない名曲で沢山の歌手がカバーした。
ロバータ・フラックがヒットさせてから、シャーリー・バッシー、
ジョーン・バエズ、畠山美由紀、岩崎宏美も歌っている。
YouTubeでオリジナルのジャニスの泣き歌を聴いたら、
鼻がツーンとして目がウルウルしてきた。
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ジェシー 帰ってきて
二人のベッドのあなたの側が少しへこんだままよ
日に日に寒くなるから 一人じゃ辛いの
暖炉の側で二人で寝転んで 炎に照らされたあなたの横顔が
懐かしくて仕方ない
階段の外灯は点けたままにしておくわ
別に怖いんじゃない
あなたが帰って 暗くても困らないようによ
お願い この二人の家に早く帰ってきて
この床にも食卓にも あなたとの時間が染み込んでいるわ
床を歩く足音だって聞こえる気がする
飾り棚の写真立てのあなたの笑顔の写真が
セピア色に褪せてきている
ねえ ジェシー
あのブルーとグリーンのベッドカバーもそのまま
洗濯しておいたから新品同様 いつでも元に戻れるようにね
あなたがあの外灯を消して 髪を解いてくれて
あなたの温もりに包まれて眠りに落ちてゆくんだわ
私をひとりぼっちにしないで
ジェシー 早く帰ってきて頂戴