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マリリンの陰影
あれは、いくつの頃のことだったろうか。
父の書斎にあった週刊誌のグラビアに
水着を着けずにプールで泳ぐ金髪の女性の姿があった。
胸はドキドキ、頭はモヤモヤ、顔は火照った。
それがマリリン・モンローを見た最初だった。
1926年の生まれというから大正15年寅の年で、
生きていれば96歳のおばあちゃんになっている。
母と同い年で、現在の母の姿とマリリンを
重ねるのは無理といえよう。
マリリンは人の何倍もの喜怒哀楽を味わって
36歳という若さで足早に生を終えた。
孤児院、里親、16歳で始まる結婚離婚の繰り返し、
華やかなハリウッドスターとしての開花、
大統領との逢瀬、そして謎の死と
息つく間もない煩忙な日々だった。
愛されることで不遇な自分が守られるという思いが
染みついて、スマイルを強力な武器として磨き上げた。
それでも何万枚の写真の中にほんの僅かだが、
ポーズとポーズの間で隠しきれない素顔の写真を
見つけると目を奪われる。
そこには、寂しさを運命づけられた人の哀しみが陰となり
それこそが魅惑の光を際立たせている。
マリリンを花に例えると断然桜だろう。
パッと咲いて世の中に満身で愛嬌を振り撒き、
茶色く枯れる花びらを一切見せること無く潔く散ってゆく。