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塩と胡椒
塩には不思議な作用がある。
食べ物に少し振りかけただけで眠っていた味覚が万華鏡のように
きらきらと輝く。
古代ローマの時代、兵士は給料としてお金ではなく塩で欲しがった。
塩の方が、価値が高かったのである。
塩を男からねだる娘の作り笑いの様子からしおらしいという言葉になった。
食べ物に塩を振ると腐りにくいという不思議な力は
やがて清めのイメージになる。
玄関の盛り塩も相撲の力士が振り撒く塩もここからきている。
胡椒もまた、古代から大変な貴重品で、
胡椒の保有で財力と権力を誇示できた。
中世ヨーロッパの大航海時代の狙いはインド、東南アジアの胡椒だった。
冷蔵庫のない時代、腐りかけた肉を食べるには胡椒なしではいられない。
コロンブスの頭の中には憧れの胡椒の香りがチラついていたに違いない。
古代から人は塩と胡椒を重宝にした。
現代でも食卓に塩と胡椒入れの置物を置くのは、あたりまえの事で
世界中の観光地の土産物屋の定番になっている。
アメリカ、テネシー州ガトリンバーグという街には塩と胡椒を入れる置物の
博物館まであるという。
人は味覚にどれだけ動かされてきているのだろうか。
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