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ペコちゃんを助けたかった
昭和35年、10歳の頃のことだ。
堅物の父がどういう風の吹き回しか、銀座で食事をするという。
休日と言うのに、父はネクタイに背広、母はとっておきの
水玉のワンピースに白い帽子で装い、子供達もよそ行きの服を
着せられて出掛けた。
西武線豊島園駅から乗って小一時間、丸ノ内線銀座駅で降りた。
キレイなビルが建ち並び大都会を感じた。
数寄屋橋交差点の不二家を目指した。
入口に舌をペロリと出して微笑むペコちゃんが置いてあった。
思わず頭に触ると大きな頭がグラリと揺れた。
意外な動きに驚いていると、妹たちも撫でている。
ゆらりゆらりとご機嫌ペコちゃんが「いらっしゃい」と
歓迎してくれているようで銀座で食事という特別感を盛り上げてくれた。
何を食べたか覚えていないが、デザートのアイスクリームは記憶がある。
四角いパリッとしたウエハースが添えられていたのが
これまた特別感がしたのだ。
両親も子供達のご機嫌ぶりに終始微笑んでいた。
食事を終えて、レストランを出ると、ペコちゃんが2,3の男の子たちに
小突き回されていた。
頭が右に左に激しく動き、キャッキャと盛り上がっていた。
ペコちゃんに深く同情し、帰り道、ああいう仕掛けは
止めた方がいいなあとずっと考えていた。
それからしばらくして、小学校の教室で丸顔の男の子が
ペコちゃんのように舌をペロリとした笑顔をさせられて、
頭を小突かれているいじめに出会った。
割って入ってその男の子を助けたという結末には残念ながらならない。
私も小柄で腕力のない残念な男の子だったことを思い出す。