タージ マハル
アーグラの街から程近く
曲がりくねったヤムナー川のほとりに佇む
美しくも悲しい白鳥のことだ。
ムガール王の行きすぎた愛情が愛妃の命を削ったという。
寂寞は王の自慢の黒髪を一夜にして白く変えた。
華麗な墓を、という愛妃マハルの願いは王の救いの言葉。
贅を尽くした霊廟をマハルの容姿を夢見ながら造った。
22年もの想いの歳月。
白く輝く大理石はジャイプールから
1000頭の象が隊列を組んで運ぶ。
翡翠、トルコ石、水晶、ラピスラズリーを
アラベスクの模様に嵌め込む。
四本のミレットを象った尖塔が左右対称に配され、
それはイスラムの掟。
霊廟のどこにも愛妃マハルの姿はなく偶像崇拝を禁じる、
これもイスラムの掟。
ヤムナー川から立ち昇る朝霧に霞む姿、
晴天の陽を浴びると白以上の白に輝き、
夕陽が沈んだマジックアワーには黄金に映え、
月の夜は、あくまでも蒼く輪郭が冴え渡る。
王の狂った夢は、黒い白鳥を川を隔てて対に作ることだった。
過大な夢は王を幽閉の小部屋に閉じ込め、
小窓から白鳥を眺めて生を終えた。
この世には片時も常なるものはなく、
川の水のように流れるものとは、わかっているのだが・・・