
感じる機縁
野良犬が当たり前に辺りを歩いていた時分のこと、
ある日、門の前の道を掃き掃除していると、
脇の電柱に片足を上げている不届きな犬がいた。
コラッ!と叱ると上目遣いでワンと一声発した。
目と目が合って止まった瞬間があった。
その後、何事もなかったように
悠々と歩き去って行く犬の後ろ姿を見ていて、
何か、同じ生き物同士という懐かしい連帯感を感じた。
そして、その犬とは10万年前にアフリカで
出会っていたという思いが湧いてきた。
その時も大事な薪に片足をあげて濡らしていたので
コラッ!と叱ったのである。
10万年ぶりの再会にしては、
いささかあっさりしているが、そんなものだろう。
お互いに命が果て、骸(むくろ)は朽ちて
原子レベルまで還元し、
摂理に導かれ人として、犬として輪廻して
その時出会ったのだ。
原初からの記憶は細胞に確かに残っている。
してみると運命に導かれて出会っている
親・兄弟・親戚・伴侶・実子・友人・知人など
思いの通じる全ての人々というのは
きっと何度も何度も、時代・時代で
共に生きた強い縁で結ばれているに違いない。