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老いるチェンジ
あたしはね、昔から正月は4月にするのがいいって言ってるんですがね。
そうでしょ桜が咲いて一年の始まりを彩る、どうですかい?
寒い1月よりよっぽどいいや。
やっと世の中大分わかってきたようでテレビで言ってるでしょ、
「お正月を移そう」って。
落語を聴いていたらこんなまくらで始まった。
昔のことなので、若い人にはなんのことか分かるまい。
フジフィルムのテレビコマーシャルで、正月が近くなると
盛んにやっていた。
「お正月を写そう」。
なーんだ、うーサブーという声が聞こえてきそうだ。
年取ると頭の中が言葉で一杯になっちゃって、
ダジャレがやたらに浮かんでくる。
これを老いるチェンジとしておこう。
医者がいくら聴いても返事しない病気、扁桃腺。
アヒルの寝坊、あ昼だあ。
グレーテルがグレてる。
駅員に駅名を聴くと怒鳴られる、菊名。
段々バカバカしくなってきたのでこのくらいにしておく。
一休さんは、幼少のころから仏門に入り修行し、
二度も自殺未遂を起し、ついに人間真理を悟ったらしいが、
高僧の道を嫌って裏街道を往った。
その道は飲酒、肉食、女犯、男色の破天荒で
寺の入り口に、「俺に用事があれば、酒場か女郎屋を探せ」と張り紙した。
人々が正月をめでたいと祝っているところに、ボロの袈裟を着て
骸骨を乗せた杖を持って現われて
「門松は冥土の旅の一里塚めでたくもありめでたくもなし」
と唱えて歩いていた。
「南無釈迦じゃ 娑婆じゃ 地獄じゃ 苦じゃ 楽じゃ
どうじゃ こうじゃというが愚かじゃ」
とラップ調で仏教そのものを蹴っ飛ばした。
晩年は老いるチェンジか、50歳も年の離れた盲目の女性をこよなく愛し
静かに過ごし87年の長命に与った。
最後の言葉は「死にとうない」で、未練たっぷりだ。
せめて、最後くらい
「やっと死ねるか」ぐらいのことを言って
見栄を切って欲しかった。