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人間だもの

小学校の2年生頃の私はやたらと手をあげる子供だった。
母が担任の先生との面談から帰って来た夕げの時に
先生の評価の言葉を話題にした。
何事にも積極的で発表力があるが、ちょっとオッチョコチョイな
ところがあるとのことで、一つのエピソードを添えた。
授業の中で先生は「うさぎの前足と後ろ足はどちらが長いでしょうか?」
と問うと、いつものように私が真っ先に手を挙げて立ち上がり、
それから少し考える間があって、前足が長いと答えたそうだ。
そこで家族一堂大笑いになった。
特にそのことで傷ついた覚えもなく、私も笑いの渦に入った。
そんな快活な幼少時代から始まって成長するに従って
内気な青年に変り、サラリーマン時代では人前に出るのが苦手になった。
集まりで自己紹介の場面では、胸が詰まるような緊張感に悩まされた。
大事な会議があるとか、催しがあるというと2,3日前から体調が狂う。
精神医学的には予期不安症という病名がちゃんとある。
スーパーで買い物してレジで並んで、自分の番が近づくと
何か落ち着かなくなり、無意識にトイレの場所を確認したりしている。
よくお笑い芸人や役者で、幼少の頃は人見知りだった、などと
精神的な成長の結果をひけらかしている。
幼少の頃の目立ちたがり屋が、大人になって人見知りになるという
私の場合は精神的な後退になっている。
まさか、うさぎの前足が長いと発言して恥をかいたことのしこりが
残っていたとは思えない。
どこかで聞いたことのある、この言葉に救われる。
「人間だもの」
 

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