見出し画像

さん付けと呼び捨て

小劇場で入場が始まった。
係員の女性がハキハキした調子で来場者に整理番号を告げている。

「一番さんどうぞ、二番さんどうぞ、三番さんどうぞ・・・」というように順番に呼んで入場を促してゆく。
時折、「ありがとうございます」とお礼を挟む。

 友人と衆中にいて、整理券を見せ合って
「66番、67番かあ、随分先だね、それにしても、
あのようにいちいち何番さんどうぞと言い続けるのは疲れるだろうね。
番号だけ読み上げればいいようなもんだが」
と言い掛けると友人は即座に言った。
「番号だけだと号令になって背筋が伸びて整列してしまうよ、
立場が逆転して、お客がヘコへコするようになるだろう」
と言って笑った。

 外国では番号に「さん」を付けないし、「どうぞ」などと
言うこともないだろう。
日本特有の尊敬語、丁寧語、謙譲の美徳、おもてなし精神ということか。

会社名に「さん」を付けて呼んでいるというビジネスマンは、81.9%にも上り、それはおかしいことだと思っている人が43.6%いるという
日本トレンドリサーチ社のアンケート調査がある。
変だけど、みんながやっているからやっている、ということのようだ。

 では逆に呼び捨てるか、というと穏やかではなくなる。
英語で呼び捨てをどう言うか調べてみると、なにやら長い説明文で
訳が分からない。そもそもそういう慣習もセンスもないのである。

呼び捨てにされると、突き放された感じや不機嫌な感じ、
高圧的な感じがするというのはナイーブでウエットな日本人の
古来からの体質のせいなのだろう。

いいなと思ったら応援しよう!