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天国はクラウド
ター君は墓前で手を合わせて目を瞑り祈っている。
瞼がピクピクとして唇も微かに動かしている。
お父さんが「どうしたの、ター君、随分長く拝むんだねえ」
ター君は片目を開けてお父さんを見上げて言った。
「だって、お父さんがさっき、お墓の前でお爺ちゃんの
顔を思い出すんだよ、そうすれば天国から
帰ってくるからって言ったよね、
だから大好きなお爺ちゃんを思い出していたんだよ」
墓前で手を合わせて拝むとき、何を巡らすだろうか。
故人の思い出。念仏。
駅前の花屋は高かったなあ。
今日は少し寒い、カーディガンを持ってくるんだった。
この線香、高価な割に匂いがいまいちだなあ。
お寺にいくら包むかな。
この後どこでご飯を食べようか、寿司、イタリアン、中華・・。
実は故人の元気な時の笑顔をできるだけはっきりと
思い浮かべるのが供養になる。
故人の姿を脳裏に結ぶと故人は天国から瞬時にやってくる。
パソコンで写真ファイルから故人の写真をクリックしたら
パッと画面に現れるように。
天国はクラウドのように人々のデーターが浮遊している。
この世に呼ばれると天国でポイントが付くらしい。
だから人に愛されて、惜しまれて、思い出したくなるような人物に
ならないと冥福を味わえない。
ター君が庭の片隅でしゃがんで手を合わせている。
お父さんが「何に拝んでいるの?」と訊くと
「こないだ死んじゃったカブトムシをここに埋めたの、
顔を思い出そうとしているけど、どんな顔だったか出てこないんだよ」