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2021.12.28(田崎)

もう去年のことだけど書き留めておきたいこと。

年末に絵の先生のアトリエに仕事に行った。

1.2年前、先生が受け持つ教室で私は生徒さんにたまたま持っていたキスチョコを配った。
先生は席を外していて、だから先生の道具が置いてある箱馬の端にチョコを置いた。
少しして戻ってきた先生は「あ、チョコ。」と言った。誰からなのかとか、お礼とかなんにもなく低い声でぼそっと

「あ、チョコ。」

それがなんかすごくよかった。
(後から知った、先生は糖尿病)

また別の日、先生は、絵は9割が方程式だと言った。(この前会ったときは8割になってた)
「残りの1割は何ですか。」と聞いたら「啓示」と言った。その後大袈裟なマイムをしていた気がする、本気なのかふざけているのか。

そういう先生。


28日は仕事の前にご飯を食べることにしていた。とんかつか蕎麦か聞かれて私はとんかつと言った。前回は蕎麦だった。
とんかつ屋さんはまだ開いてなくて、コメダ珈琲で時間を潰すことにした。

「先生元気でしたか?」
「大変だったんだよ」
「あら」
「7月にコロナになって」
「あー、なんか聞いたような気がします」
「肺炎にもかかって。退院して帰ったとき家がやけに片付いてるなと思ったらもうダメだと思ってたからって。みんな死ぬと思ってたらしいよ」
「先生はそんな感じしなかったんですか?これはもうダメだ..みたいな」
「なかった。全然なかった。看護師さんは『今相当辛いはずなんですけどね』って言うけど全然」

糖尿病との兼ね合いもあってとても大変だったらしい。
病院食の薄味が続いて退院後すぐはワインの味がきつかったけど、健康にはやっぱりポリフェノールだろと飲み続けたらペース戻ったって。


とんかつ屋さんでお金とか仕事の話になった。

「仕事がしんどいと言いながら何で辞めないのか分からないんですよね」
「お金がないと不安なんだろう」
「私お金があったことがないから不安になりようがないですよ」
「あはは」
「したくないことして嫌な人と会い続けるほうがよっぽどストレスだけどな」
「まあ愚痴だよ愚痴。それでもお前よりはいいと思われてるよ」
「あはは、確かに」
「おれたちはなんか穴が空いてんだよ」

胸の辺りに手を置きながら先生が言った。

「そうかなぁ、私は社会が悪いと思ってますけどね。私はまともだと思う。社会のシステムが難しすぎる」
「いやー、穴があるね」

「君はまだ若いから。年取ったら金がかかる」とも言っていた。


CWニコルさんの話もした。先生は交流があったらしく、時間があるとニコルさんの話をよくしてくれる。過剰なモノマネをしながら。

「ニコルさん豚飼ってて、可愛い豚ほど美味しいって言ってたよ」
「手間をかけたほうがいいってこと?」
「ストレスで内臓が悪くなったり、不味くなるらしいね。だからウサギとかにも『きみ可愛いね〜』って言いながら骨をポキッ。あの人めちゃくちゃ」
「ははは」


仕事は10分×2回のクロッキーを8セット。
終わってから好きなクロッキーを2枚もらった。

先生のアトリエには実験中の絵がたくさんあった。構図の研究、空間を歪ませる?実験。二次元と三次元の間、その上に人物を配置していく。シンプルにやりたいけど、どうしても細々したものを書き込んで誤魔化してしまう、と言ってた。

クロッキーの合間、「いい線って何ですか?」と聞いた。ガーッとかシャッとか擬音がたくさん混じったよく分からない答えが返ってきた。

「でもそれもきっと感覚だけではできないですよね。鍛錬がないと」
「どこからでも(線を)引けるようにしておくのと、圧もコントロールできるようになってないとね」
と、手首を回したり腕を上下に動かしていた。

「いい線は奇跡みたいなもんだけど、一回きりじゃだめで繋げて(重ねて)いかないといけない」と言った。


前に来たときもこの日も「若い頃は、世の中実力主義だと思ってた」と言っていた。上の人に嫌われてばかりらしい。あまりに素直な物言いなのでとても想像がつく。


この先生のほかにも大好きな先生が何人かいて、一貫してみんなとても正直だ。愛想笑いをしない。歳を重ねてるところと、こどもみたいなところどっちも持っていて、目が瑞々しい。
ほかの先生のこともいずれ書こう。それぞれ名言がある。
出会うこと関わることっていいんだな、と今これを書きながら思った。


2022.1.4

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