千と千尋の神隠し

千と千尋の神隠しの舞台を配信で視聴した。
同期芸人の脇屋敷と一緒に。この舞台は橋本環奈さんと上白石萌音さんのW主演。主演とはつまり千尋の役を担当しており、僕が観たのは上白石萌音さんが千尋の回。


上白石萌音さんは殆ど千尋そのものだった。動きなんかアニメ映画版そのままで、走り方やら表情やらアニメーションを見ているかのようなシンクロ度。リンの役の人もリンそのものだった。

舞台セットの転換なんかも凄まじくて、画面越しでも迫力が伝わってくる。油屋のセットなんかがシーンによって代わる代わる転換されるのだけど、まるで生き物が動いているかのようでハウルの動く城のようだった。

(ジブリをジブリで喩えるという反則技でしか伝えられない表現力の乏しさは申し訳ない。改めて考えると「双亡亭壊すべし」とかの方がイメージに近いかも。藤田和日郎先生の)



そんなわけで子供の頃ぶりに千と千尋を観たのだけど、子供の頃に見た時と同じような感覚というか。

大人になっても千尋の両親はあまり好きになれなかった。

物語冒頭で千尋の両親は勝手に屋台に並んでいる中華を食べ漁る。食べかすを花火のように宙に撒き散らしながら。
千尋が「勝手に食べていいの?」と両親に尋ねるのだが母親は

「お金はあるんだから店の人が来たら後から払えばいいわよ」
と返す。

僕はこの考え方がかなり嫌いで、完全な悪いやつというわけではないけれど「自分の周辺に1人はいる非常識なやつ」という感じ。ファンタジーの悪党じゃなくてなんとなく「あるある」地味ているのが嫌なんだと思う。

千と千尋で1番印象に残っているシーンはあるかと考えると「ハクが名前を思い出すシーン」とか「千尋が泣きながらおにぎり食べるシーン」とかの名シーンではなくこのシーンが出てきてしまう。

子どもの頃にこのシーンを見ていた時は自分でお金を払って飲食店に行く機会なんてなかったのだけど、それでもぼんやりと嫌悪感は凄まじかった。その時は大人になったら普通なのかなと思っていたけど、大人になって見返したら「こんなことしないわ!」と2人の非常識さをより強く感じるようになっていた。ぼんやりとした嫌悪感はクッキリと鮮明なものになった。

まあ、全て両親が豚になる事に可哀想という感情を抱かせないための演出で僕はまんまとハマっているんだろうな。


子どもの頃に疑問を持って、大人になっても疑問だったのは「えんがちょ」だった。

釜爺がタタリ虫を踏みつけた千に向かって「えんがちょ」をして、これで大丈夫。的な流れになるのだけど、様々なハテナな事が起こる物語の中でこのシーンが1番ハテナだった。

脇屋敷は子どもの頃にえんがちょは普通にやっていたと言っていたけど、僕の周りでやっている人はいなかったし、その存在を知らない。どうやら汚いものを触った時にする御呪いみたいな事らしい。

このシーン以外の千尋は、
僕の知らない不思議なものに、僕と同じ感情と速度でびっくりしたり、怯えたり、あれは何?と質問をして、その答えを聞いて僕も理解する。という同じ歩幅で歩いてくれている。

だけどこのシーンで千尋は鎌爺に「千!えんがちょ!」と言われると、ノータイムで手の指を使って円を描く。その円を鎌爺の手が縦に切り裂いて「これで大丈夫」となるのだが、

僕からしたら「えんがちょ」という知らない言葉に千尋がなんの疑問も持たずに指で作った円を差し出すのが、急に千尋に裏切られたかなような気分になる。
一緒に冒険してきたんじゃないのかよ!えんがちょってなんだよ!!心の中で叫ぶ。
あくまでえんがちょを知らない僕目線。

芸人のネタのツッコミなんかでもよくあって、ツッコミの人は見ている人の違和感を解消する為に存在している。
ボケの人の言う不思議な事に、ツッコミがツッコんだりリアクションを取る事で見ている側はその話に着いていけるのだ。
そのリアクションを怠ったり、捉え方が的を得ていないと、見ている側がポカーンとなってしまう。
あの瞬間、千尋はそのツッコミの役割が出来ていないのだ。えんがちょを知らない人向けのリアクションが。

僕が作家でダメ出しをするとしたら千尋に「えんがちょって何?」と鎌爺に一回聞いて説明させたり「えんがちょってあの〜するやつね」と説明を入れるようにアドバイスをしようと思う。
そして千尋に「あのメロディってやつ、えんがちょ知らないのかよ。知らないとしてもそういうのがあるんだろうなって風に見てくれよ。オクサレ様みたいな見た目のくせに」なんて影で言われるのだろう。



そんなわけで昔観た時と大人になって見返した今でも同じような感情を抱いた。そこもジブリの魅力なのかもしれない。
大人になってから見ても「海の向こうの街に行きたい」と言うシーンのリンの前掛けみたいな格好にはドキッとするし、番台で貰った札を鎌爺の元へ届ける時のシステムは理屈は分からないけどワクワクする。


もののけ姫なんかも久しぶりに見返してみようかな。

ちなみに僕のもののけ姫でパッと浮かぶのは
序盤に斬られた腕が木に刺さるシーン。
人生で初めて観たグロシーンなので鮮明に覚えている。それ以降は怖くてあんまり覚えてない

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