1992年 SideB-7「涙のキッス/サザンオールスターズ」
桑田佳祐作詞・作曲 小林武史&サザンオールスターズ編曲
・「ずっとあなたが好きだった」(TBS系 1992/7/3~9/25)主題歌
TBS系金曜10時枠7月クールドラマ主題歌。「ふぞろいの林檎たち」の印象が強いので惑わされるが、サザンオールスターズの書き下ろしドラマ主題歌はこれが初めてである。サザン名義では唯一小林武史とがっぷり四つに組んで作られたアルバム「世に万葉の花が咲くなり」のリードシングルで、オリコンで7週連続首位を獲得、150万枚を売り上げてこの時点での自己最大のヒットシングルとなった。
「ずっとあなたが好きだった」は、90年代初頭のドラマ黄金時代の中でも一際強い光を放つ作品であり、数多の名作を世に送り出してきたTBSのドラマの歴史に大きな楔を打ち込んだ記念碑的ドラマでもある。脚本は萩本欽一のブレーンである作家集団・パジャマ党の出身でのちに「踊る大捜査線」シリーズも手がける君塚良一。プロデュースはこのあと立て続けにヒット作を出し続け、TBSドラマのイメージを塗り替えた貴島誠一郎。両者にとってこれが初めてのメガヒットドラマであった。
主演は賀来千香子と布施博。今ではよく知られたエピソードだが、当初制作側は「引き裂かれた恋人たちが数多の障害を乗り越えて再び結ばれる」という純愛ドラマを指向していた。ヒロインのマザコン夫・冬彦さんはあくまで2人を妨げる障害の一つであり、ここまで大きくフィーチャーするつもりはなかったという。自ら進んで役を掘り下げ大胆にアプローチした佐野史郎の“怪演”がドラマの方向性を変え、そのことがドラマを大きな成功に導いた。あるキャラクターに人気が出て、もともと想定していなかった方向に作品のトーンが変わるということは時折あるが、それがこれだけ顕著な成功を収めることは珍しい。そしてこの“怪演”は佐野史郎自身のキャリアにも大きく影響を与え、このドラマ以降現在に至るまで佐野史郎はテレビドラマに欠かせない存在となる(もうひとり、このドラマをきっかけに大きく存在感を増したのが野際陽子である。元女子アナを振り出しにすでに多くのカードを持っていた彼女は、このドラマで母親役という大きな切り札を新たに手にし、文字通り90年代以降のドラマの顔となっていくのだが、その話はまた今度)。
しかしこのドラマの最大の面白味は、やはり「ずっとあなたが好きだった」というタイトルの意味がラストでガラッと入れ替わるダイナミズムだろう(くわしくは書かないが)。それにより当初テーマとして掲げられた“純愛”というメッセージが再び登場し、大きな枠組みでドラマを締めくくる。過激なマザコン描写で鼻先を引きずり回された末のこのどんでん返しは強烈で、ドラマに大いなる余韻を残した。以降この手法は貴島プロデュース作品の必殺技となり、「誰にも言えない」や「愛していると言ってくれ」でも踏襲されることとなる。そしてそのミスディレクションに、このサザンの主題歌が一役も二役も買っていたことに僕らは最後に気づくのである。ドラマ同様、歴史に残る名主題歌であった。