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春のちょいポタ その8 川崎町をいま一度見直す(宮城)
はじめに
宮城県柴田郡川崎町。
西は山形県、東は仙台市太白区に接する広大な山林(蔵王の御釜も、蔵王町のように思えるが実は川崎領だ)、それらに囲まれた真ん中辺の小さな盆地から成る。フィンランドのパン、カルヤランピーラッカに似ているといつも思う。ちなみに真ん中の部分はグラタンぽく見えるがただの米(粥)で見た目ほどおいしくない。
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上り山形道をクルマで走るとその盆地を俯瞰できる。その地形を見るたび線路を敷いて鉄道模型を走らせたいと思う。ということは自転車で走るのにも向いた地形だ。
ちなみにずっと昔、この一帯からひと山越えた北側には秋保電鉄、南には仙南温泉軌道という軽便鉄道が走っていた。そのように夢想するのも道理である。
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この町の山の中にはわが山荘がある。なので準地元と呼んでもいいのであり、川崎町にはひとかたならぬ愛着と馴染を覚えている。毎年ふるさと納税もしている(返礼品の町内産牛肉おいしい)。
ふだん山形の自宅と行き来したり、仙台方面へ仕事に出かけたりする際に町内の道路をクルマで通ることは多い。その度にこのあたりを自転車で走ったら気持ちよかろうと思うのだが、走ったことのあるのはもっぱら東側の釜房ダム周辺だった。西南部は未開拓のままだった。そんなことで準地元とか言ってはいけないのではないかとある時反省したのである。
ひと山向こうの秋保エリアは近年サイクリングコースとして喧伝されている一方で、この川崎町を周遊してみようと思うサイクリストもいない。たまに見かけるローディーは仙台方面から来てR286笹谷峠もしくはR457で青根方面に向かうヒルクライマーぐらいだ。
そこでこの機に、川崎をポタリングエリアとして開拓することにより町をよりよく知り、理解したいと考えた。折しも最近の小規模ポタのマイブームに乗じて、元の暗かった灯台である準地元・川崎町を改めて周遊してみようと思い立ったのである。
謎の空き地について考えた
役場やスーパーのある中心部から走り出す。
盆地を東西に貫くのが旧笹谷街道。町並みらしいものはこの道沿いにかたまっており、他は広大な農地が広がるのがこのエリアの構造だ。
高速道が開通する前、昭和の頃は山形ー仙台のバスは川崎にも停車していた。仙台との間の乗降だけで山形ー川崎という乗り方はできなかったように記憶している。
国道286号線の北側の広大な一帯は住宅と工場が散在するが、多くの部分が謎の空き地である。造成したけどあんまり売れなかった分譲地か工業団地、みたいな雰囲気だ。
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造成する前は何だったのか、農地だったのか、開拓地か、以前から不思議に思っていた。この機に国土地理院のウェブサイトで過去の地図を調べてみた。
1970年代の航空写真があった。
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何やら盛んに造成しているあたりは今も工場が点在する。その他は一面の農地だったことがわかる。
しかし大半は今も空き地だ。当初はもっと大規模に工業団地的なものを作ろうとしたが盛り上がらなかったので今のような中途半端な土地利用になったという感じだ。
まっすぐウェイ
ぜんぜんポタリングの話が始まらないじゃないか、自転車の話をしろよという声もあるだろうから、そろそろ走り出そう。
この広大な謎エリアの先は一面の農地が開けて、国道の北側を並行する裏道をいく。
普段クルマで走る国道とは別世界のようなのどかな道のりだ。
西の方角を目指す。
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平らなようでじわじわと登っていく道は、やがて平地の西端たる古関集落に至る。
こんな鄙にと驚くような場所にラーメン屋(支那そば屋)があって、国道を通る客に人気だ。ちなみに国道をもっと山中に入ったところにはもう一軒人気ラーメン店(渓流ラーメン)があったが、最近閉店してしまった。繁盛していたのだが。
いつもクルマで下を通り抜けるR286のオーバーパスを初めて上から渡る。ここから東に向きを変える。
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城址とか幻の温泉とか
町場の南側には地味だがインパクト強い史跡がある。
前川本城跡、鬱蒼とした木立の中に土塁や堀、本丸跡などの遺構をよく保存した山城跡だ。
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中世から戦国期まで地元の豪族砂金(いさご)氏が居城とした。戦国期以降同氏は伊達家の家臣となって川崎館(現在の城山公園)に引っ越し、こちらは廃城となった。
今回は素通りしたが、以前城址を探索した際の写真を載せておこう。
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城址への道が岐れるところに「城山温泉郷」の看板がある。
その先には現在民家が数軒あるだけで、宿や温泉らしきものは何も無い。なぜか床屋だけがある。以前は温泉郷があったのだろうか。そしてなぜあんな寂しい場所に床屋だけがあるのか。さらなる川崎町の謎である。
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ちなみに町内には釜房ダム北岸の森の中に以前一軒宿(金山温泉)があったが廃業、さらにR286を山奥に入った笹谷の一乃湯も昨年廃業し、現在町内の温泉は山奥の青根温泉郷のみとなっている。
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みやぎ蔵王三十六景
さらに農道を東へ。田植えの済んだばかりの田んぼと蔵王の山並みが絵になる。
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この辺りの風景は「みやぎ蔵王三十六景」とやらのひとつに選定されている。
まあ遠望できる山は小さいのだが。隣の蔵王町のほうが山なみは絵になる。
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この先さらに東に行くと、広大なみちのく杜の湖畔公園がある。毎年5月にここでアラバキロックフェスが開催され、川崎町が一瞬全国区になる。
公園の裏を通り、釜房ダム湖の北側に至るルートもサイクリング向きだ。何度か走ったこともあってよい道なのだが今日は時間の都合で割愛した。
公園の手前から向きを変えて町の中心に戻る。
町役場近くの小高い丘が川崎要害(城)跡だ。こちらは小学校と公園になっており遺構はない。
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以上、走行27kmだったが、比較的平坦でクルマも来ない道と雄大な風景を味わえるよい周遊ポタであった。これに前述の釜房ダム湖周回も加えれば+10キロちょいのコースとなる。
川崎町、迂闊にもこれまでよく知らなかったが、灯台もと暗くないし、いい道だった。
一山向こうの秋保エリアのサイクリングは、両端に温泉と滝という観光名所があるから集客力があるのであって、道に関しては川崎のほうがクルマいないし、風景が開けていて気持ちいいし、眺望も絵になるし、すぐれていると思う。
宮城県南のおすすめポタリングエリアのひとつである。