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欧州鉄+ブロンプトンおじさんの旅本・田中貞夫シリーズを読む

星井さえこさんのブロンプトン本「おりたたみ自転車と旅しています」が好評で、小径車愛好者界隈では盛り上がっている。
ラブリーなイラストと精緻な絵は一般人の心も捉え得るものがあり、ブロンプトンの売り上げも向上するだろう。
世間では物好きなおっさんのオモチャと捉えられがちな折りたたみ小径車が、著者のような若い女性にも愛好層が広がればおっさんとしても喜ばしい。

しかしもっと以前から、あまり話題にはなってないが、ブロンプトン旅本を書いていた日本のおじさんがいた。田中貞雄氏である。
氏は60歳で定年退職後にブロンプトンを購入、かねてからの夢であったドイツ自転車旅を実行する。
この時の旅行記が1冊目の「南ドイツロマンティック街道旅」(2011)である。
ただ普通のサイクルツーリストと異なるのは、田中さんはコアな鉄道マニアでもあったことだ。
最初の旅行で保存鉄道のSLに魅せられて以来、以後の旅行はドイツ各地の保存鉄道を巡ることが主眼となり、その撮影の足としてブロンプトンを活用するというスタイルになっていく。
以後、ドイツのみならずデンマーク等にも足を延ばし、巻を重ねるごとに次第に鉄分比率が上昇した内容となっていく。(そしてブロンプトン比率は下がる)

その内容はといえば、いずれの巻もページ狭しと詰め込まれた文章に写真、詳細の極みの旅日記と、情報量と熱量がすごい。
(悪く言えば、個人ウェブサイトの内容をそのまま無理矢理詰め込んだようなレイアウトで、読み易さの点ではいまひとつだが。)
随所に描かれた手書きの絵地図の出来映えも秀逸。経歴を見ると東京理科大工学部卒でエンジニア畑を歩んで来られた方のようで、製図やイラストにも造詣が深いと推察する。(そういえば星井さえこさんも本業は工業デザイナーだ)。

概して欧州の保存鉄道というのは、観光地ではない小さな田舎町から発着し、森や田園風景の中を走って小さな村を結ぶ。
それらを自転車で巡る旅は自ずからのどかな風景や美しい家並みに彩られたものとなり、ページからは絵になる町の静かな佇まい、宿やカフェの空気感が伝わってくる。
そしてそれはこれまでのわたしの旅の心象風景に重なるものがあまたあり、それもこのシリーズ本が好きな理由だ。

シリーズ第1巻(2011):ロマンティック街道を何回かに分けて(冬季含む)走破

Vol2(2015):南ドイツザクセン州の保存鉄道めぐり。わたしも乗り鉄したドレスデン周辺のものも出てくる。

Vol3(2017):さらにハンブルク、ブレーメン周辺の保存鉄道を制覇

Vol4(2019):ノルトライン=ヴェストファーレン、ヘッセン、バーデン=ヴュルテンブルク各州で無双するの巻。日本人にもおなじみのデュッセルドルフ〜フランクフルト周辺にもこんなにいい田舎町と保存鉄道があったのかと驚かされる。

Vol5(2020):北ドイツからオランダ、デンマークへ足を延ばして破竹の進撃

以後コロナ禍で旅行もままならぬ中でどうお過ごしだろうかと思ってたが、ちょうどこの記事を書いてたらVol6が出たことを知る。

2022年、74歳を迎えた田中さんの今回のブロンプトン旅。
かつて在職中に仕事で訪れて馴染みだったドイツの町と、退職直後にホームステイ遊学した英国の街を再訪するというもの。保存鉄道撮り鉄のほうもしっかり押さえており、鉄の情熱に全く衰えが感じられないのはさすがである。
それは日本のブロンプトン旅おじさんへの檄でもある。わたしもまた遠くない将来に出かけよう。

あとVol1からずっとご愛用のキャラダイスのブロ用フロントバッグいいなあ…(いまは売ってない)

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