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秋のブロンプトン〜最上川あれこれ三大噺

新庄の前に金山

新庄に用事があった。新庄は山形県北は最上地方の中心都市で山形新幹線の終点である。新庄まで新幹線を引いたのはあくまで今後それより北の秋田県のほうに延伸する意気込みのあらわれである。いわばステッピンストーンであって、新幹線を引くほど重要な町であるからではない。
新幹線より先に高速道路がどんどん出来てきて、秋田県境あたりを残して開通している。その残りの部分もいまトンネルを掘っていてもうすぐ開通する勢いだ。
その高速道が出来たおかげで山形から新庄に用事がある人も日帰りできるようになったが、わたしはこの用事に際しては前泊するほうを選んだ。しかし前述のように新庄は社会経済的に重要性も低くパッとしない町なので、パッとしたホテルもない。
わたしがこの地域で好んで泊まる宿は金山町のシェーネスハイム金山だ。新庄の更に北20数km、30分かかり、新庄に用事のある人が泊まるべき宿であるかは賛否の分かれるところである。しかしそこまで行くと用事とは別のリゾート成分が生起して得した気分にもなれる。
名前からしてドイツ語(=ビューティフルホームの意)であり、Schönを中性名詞を修飾する強変化形-esと正しく活用しているところがちゃんとしている。ドイツ人が泊まりにきても大丈夫だ。ものを知らない人だとシェーンハイムとかしがちだ。昨今独語や仏語で気取ってみたものの文法的に不適切な屋号の店が少なくないが、見習わせたい。
名前に劣らず建物も南独の山荘風だ。全室ツインで部屋は広く、窓からは山野が広がる(冬季はスキー場になる)。なんなら温泉もある。

このときはやたらお得なキャンペーンで一泊6千円台だった。そんなに安くして大丈夫かと心配になるが、ありがたいことである。

金山町については3年前の夏に同じ宿に泊まった際に町並みや郊外のポタリングなど詳細に見聞した記事を書いていた。

新庄のあとに村山

そんな長い前置きを経てわたしはこの日の新庄の用事を済ませた。社会経済的に重要性の低い町であるから新庄の町は足早に立ち去るが、帰り道にどこかで小規模なポタリングをしたいと考えた。
帰り道沿いでよいルートといえば最上川近辺だとわたしは即決した。春先に妻氏とちょっと走ったエリアだが、最上川のハイライトである付近は最近行っていない。ならばこの機にまた別のルートでと思ったのである。
(この項では新庄の社会経済的重要性を貶めるような記述が散見されるが、折しも無印良品が新庄に山形県最大規模の店舗を出店予定というニュースを目にした。新庄もなかなかあなどれないのである。)

最上川のほとり、碁点の河川公園からブロンプトンで走り出す。
橋を渡って田んぼの中を走り、西岸の山裾をたどる道を目指そう。
その途中にカフェらしき小洒落た建物を遠望した。田んぼの中から遠目に見ただけだったが、帰って調べたら自家焙煎の珈琲店であった。

こんな鄙で小洒落た店を出して大丈夫かと心配になるが、評判はいいようで喜ばしい。何処に店を出そうが実力があれば客のほうから出向いてくるのだ。

山際の県道に取り付き、白鳥集落に入る。かつては周辺の小さな商圏の中心だったが今では廃業したふとん店やラーメン屋の跡に名残を残すのみだ。

地名がなぜスワンかと思うが、南北朝時代から戦国期に当地を治めた白鳥氏に由来する。その居城の跡が残っている。

ここには民泊もある。祖父母宅に遊びに行ったかのようなフィーリングが味わえそうでいい。山形の東北芸工大を出て村山の地域おこし協力隊を経たあとここに定住した若いひとの家族経営である。

北に向かう道はやがて最上川の大屈曲部に行き当たる。屈曲部によって形成された長い半島のような地形にある集落だから名前も長島だ。
ここは数年前の水害で大きな被害を受け、その後本格的な復旧護岸工事がなされ最近完成した。向こう100年は大丈夫そうな堤防に加えて、川に沿った小径がぜんぶ舗装されてポタリング向きとなったのはよいことだった。

この辺りには最上川三難所というのがある。河床が浅い岩礁を成すため流れも荒れ、いにしえの舟運関係者に怖れられたデンジャーゾーンが三箇所この付近に集中しているのだ。そのひとつがここ大屈曲部の三が瀬、もうひとつは以前に訪れた隼、あとはクルマを停めた碁点だ。現代においてはこれら三難所を、碁点を発着する平底の遊覧船で回るツアーが観光客に親しまれている。

もうひとつの屈曲点たる大淀。難所ではないがビュースポットとして名高い。

この区間の航路の安全を担当する神社

この先の東岸は切り立った崖となり、碁点まで続く。崖を見下ろすトレイルが約2kmにわたって付けられており、この辺りのサイクリングのハイライトのひとつだ。
トレイルの入り口には英語となぜかロシア語の標識が付けられている。なぜ村山でロシア語。最上川三ミステリーのひとつである。あとのふたつは知らない。

ストビューより

この雰囲気は林業か工事用の軽便鉄道の路線跡のような気がする。マニアの嗅覚がそう感じるのである。

細いトレイルは以前からグラベルで、ところによっては押し歩きを要するも大半は自走可能だった。しかし今回来てみれば一部にご丁寧にもウッドチップが敷き詰められている。

ハイキングにはより歩きやすくなったかもしれないがこれは自転車にはきびしい。タイヤが沈んでしまい自走が難しいのである。とはいえ訪れる人もまばらなこのトレイルがちゃんと保守整備されているという事実を知るのはよろこばしいことである。

トレイルはやがて公園に出る。農村文化保存伝承館というところだ。昔の民具の展示などに加えて蕎麦打ち体験が人気だ。

敷地内の公園では地元の人たちが芋煮に興じている。最上川三公園と呼ぶことができよう。あとの二つは隼の瀬眺望公園とクルマを置いてあるグラウンドゴルフ場だ。いま決めた。

伝承館の対岸にある大槇集落にも蔵造りの民泊がある。一棟貸切で、なかなかに味のある宿のようだ。さきに触れた白鳥の宿と併せて最上川三民泊と呼べるだろう。あと一軒は知らない。

この周辺は今シーズンだけでも隼周辺、河島集落周辺とショートポタで楽しんでいるがまことによいエリアである。今回のものと合わせて最上川三ポタルートと呼べる。
総集編的な河北発着のルートも以前から楽しんでいるが、今回のコースはその後半を成すものだ。

ディープ山形たるこのエリアの民泊に滞在しつつ、サイクリングと温泉と蕎麦(周辺に名店多し)の最上川三レジャーを楽しむ旅はいかがでしょうか。

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