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宮城福島湯めぐりサイクルルート:遠刈田温泉から飯坂温泉 (一部未完につきヴァーチャル)(2019.3)

【A day in the life 14】
(サムネイルはAI作成、チェーンリングが斬新な発想のダブル)

まだまだ道路が氷雪に覆われている当地、自転車に乗れないから春の話でもするとしようか。

2019年4月のある日、わたしは宮城県南に於いて花見がてら輪行サイクリングを試みた。
第一山荘のある遠刈田温泉から宮城蔵王の山裾と平野の境をなぞる道をたどって、福島県の飯坂温泉に至ろうという計画であった。起伏も少ない、ていうか下り基調である。山裾ルート愛好家にはうってつけだ。

遠刈田温泉から蔵王町内を下って白石市内に至り、そこから旧奥州街道をたどって福島県内に入る。さらにはりんご畑の中の農道をつたって飯坂温泉に至るルートをわたしは考えたのだった。およそ50㌖の道中である。

しかしこの日は出発するのが遅くなり、さらには白石の町に立ち寄るなどして時間がどんどん押してしまった。帰路の輪行が夕方のラッシュ時に重なるのを危惧したわたしは、この日飯坂温泉まで残すところ12km余りにしてJR藤田駅で旅程を中断して帰ってきたのであった。計画性のなさが悔やまれるところだ。
以後もう一度これを完走する機会があればと思いつつ、5年が過ぎてしまっているのは忸怩たるものがある。ルート自体は徹底して裏道を縫って走りやすいし、宮城福島ふたつの名湯を結ぶという観光的意義もあるし、旧街道も通るし、よいルートと自負しているので、未実走の飯坂温泉までの区間含めてここに紹介する次第だ。

遠刈田温泉

起点は遠刈田温泉だ。仙台から高速バスで1時間ちょっと。東北本線の白石駅からは路線バス45分だ。
遠刈田の町はわたしの現在の山荘がある青根から一山越えたところにある。青根温泉は良く言えば秘湯、悪く言えば斜陽ムードだが、対照的に遠刈田は数段にぎやかである。小洒落た食べ物屋やペンションもあるし、コンビニもある。それでいて歓楽色はなくみちのくの温泉街の望ましい佇まいを体現していると言える。最近なぜか海外観光客に爆発的人気の蔵王キツネ村も近い。
山形との二拠点生活を始めた当初、2006年からここ遠刈田に山荘を構えて生活していた。青根に軸足を移す2016年までの10年あまりだ。その後もその山荘は存続しているので今も頻度は少ないが足を運ぶ。従って遠刈田と蔵王町については十数年にわたる知見の蓄積があり、なんでも訊きたまえという感じだ。なんならロンリープラネット蔵王町が書けるぐらいだ。従って以下蔵王町についてもいろいろ記述を試みるのである。

遠刈田にはいろいろな温泉宿があるが、ロンリープラネット風に言うTop endは「だいこんの花」だ。わたしは泊まったことがないが、風情とラグジュアリーで他の追随を許さない評判を誇る。もちろんお高い。

お手軽なところでは最近経営が代わってメルキュールグループになった宮城蔵王リゾートホテル。バブル期仕込みのホテルだが温泉大浴場と朝食バイキングには特筆すべきものがあった。以前遠刈田で土地を探していたとき、現地に行く度に別荘地の管理会社がタダ券をくれたので何度も泊まったので知っているのである。しかし結局そこからは買わなかったので悪いことをしたとも思う。もう10何年前の話だが(念のため口コミを調べてみたら今もますます評判が良いようだ)。

遠刈田の茶色い湯はよく効く。じわじわと血管を拡げる効果を実感できてすこぶるあったまる。泊まらなくても共同浴場で浸かって欲しい。

遠刈田から白石

かつて遠刈田から村田を経て大河原に至る軽便鉄道が走っていた。仙南温泉軌道という。昭和12年に廃止されてしまったが、遠刈田温泉駅は現在のホテルさんさ亭の駐車場あたりにあった。
今もさんさ亭付近からしばらくの区間、当時の線路敷の跡が道路として残されている。クルマもギリギリ通れるくらいの細さが軽便鉄道の面影を残す裏道。ぜひ自転車で走りたい道だ。
この道が今日のルートの始まりとなる。

軌道敷はやがて交通量の多い県道に合流して終わる。この先、右手に別荘地が続く区間は県道を走らざるを得ないが、近年歩道も整備されたのでそちらなら安全だ。
ほどなく果樹園の中を行く農道に脱出できる。以後はこれををのんびり下っていく。

これも線路跡ぽいが違うぽい(線路跡は現在の県道と重なる)

やがて蔵王町中心部である平沢に着く。ここには役場やスーパーがある。近隣の人で仙台に高速バスを利用して通勤する人は役場の駐車場にクルマを停めてパーク&ライドできるようになっている。わたしもかつて遠刈田からここまで自家用車で来てそうしていた。毎朝会う乗客には勤め人のみならず高校生や学生もいた。そのあと、高速道に乗る直前の村田町ではもっと乗ってきて、ほぼ満席になるのが常だった。そういう人は結構いるのだった。
役場の向かいにはございんホールという公共施設が建っており、その中に町立図書館もある。ここは住民以外にも、わたしのように町内に山荘を持って滞在する人にも図書を貸してくれる。遠刈田に拠点を構えてひとりで住んでいた時期はここでずいぶんたくさん本を借りて読んだ。今も蔵王町には感謝している。郡部の町立図書館と侮ってはいけない。海外文学などの新刊の品揃えもよかったし、建物もきれいだ。

バス停と町役場

県道はさらに宮地区に続き、裏道も並行するのでそちらをたどる。ひっそりとした神社などもあっていい風情だ。さっきの平沢地区が蔵王町の行政上の中心なら宮は古くからの商業的中心だった。というかほとんど白石市内のような雰囲気がある。

白石から旧奥州街道

白石市に入ると県道は果たして東北の大動脈たる国道4号に合流する。どうしようかと思うが、並行する裏道はあるのでそれらを縫って白石の町に入ることができる。
白石は何度も来ているが、つい武家屋敷街周辺の佇まいに惹かれて寄り道してしまう。これが後に飯坂温泉にたどり着けない時間のロスとなる。

武家屋敷街

白石の町を端から端まで通り抜けて新幹線の白石蔵王駅に至る。

ここからは斎川というひそやかな川が流れている。その名の通り、それに沿ったのどかな農道を走っていくと旧奥州街道の宿場町斎川に着く。

唯一往時を偲ばせる建物である検断屋敷も、現在は放置され荒れる一方であるのは悲しむべきことだ。

写真は2019年。2023年再訪時は門を閉じて非公開となっていた
斎川宿外れの桜並木

斎川宿を抜けると国道4号に行き当たる。後述の県境付近と併せて、数少ない交通の激しい区間だ。1.5kmの辛抱だ。なんなら歩道を歩こう。
迂回路はないことはないが山に登った大巻きルートでの遠回りを余儀なくされる。

ほどなくふたたび旧街道が岐れてほっとする。
越河(こすごう)集落、ここもかつての宿場町だ。仙台藩の最南端だった。JRの駅もある。
斎川宿より規模が大きく、国道から岐れてから4km近く続く。

越河宿

県境から国見まで

越河の先、福島県境に至る道はふたたび国道しかない。県境というのは人も住んでないし、双方の県ともクルマ以外で行き来する人がいるとは考えていないのだ。細い歩道はあるがストビューで見ると除草もしておらず通行に難儀しそうだ。たかだか1kmだが用心して抜けたい。

福島県に入ってすぐJR貝田駅がある。そこからふたたび旧街道の静けさが戻って安堵する。
貝田は小さな町だが東北道の国見サービスエリアがある。ここは大きくて設備が充実している。数年前から外部からも出入りできるようになったから、ここで休憩軽食とするのもよいだろう。
桃の名産地のSAであるから、愛媛の「ポンジュースが出る蛇口」にインスパイアされたと思しき「桃ジュースが出る蛇口」がある。桃のハリボテに蛇口が付いているが、ちょっと見は巨大な尻に見えなくもないのが難点である。蛇口を真ん中に付けなかったところに製作者の配慮が感じられる。一杯380円(たしか)。 

観光当局のサイトより引用

貝田の町から果樹園の中の坂を下ると国見町だ。
中心である藤田地区はけっこう大きな町で、JR藤田駅もある。公立病院もあって藤田の名が冠せられている。藤田というのは中世にこの辺りを治めていた豪族の名だ。城跡や洋館もあって隣の桑折町に匹敵する町だった。

藤田(=国見)

前述の如く、実走した日は時間が押してしまい、ここ藤田駅で終了として輪行して帰ったのだった。

仙台方面は輪行袋を担いで跨線橋チャレンジ

そのときはJR東北本線で白石まで行き、さらにバスに乗り換えて遠刈田に戻った。白石からの路線バスは整理券を取って乗っていると走っているうちに料金表の運賃があれよあれよという間に上がり、遠刈田に着くとついには1000円になる。都会から来た人はびっくりするだろう。

藤田から先は、Googleマップのストビューを見ながらのヴァーチャルの話だ。
桑折(こおり)の町を過ぎた先、鉄道と高速道路の間の果樹園に水路に沿った農道が伸びている。この先7kmにわたって、このような道が飯坂温泉まで続いている。飯坂へのメインの交通は県道124号だがそっちはクルマが多い。水路沿いの道は心地よいサイクリングトレイルだ。
あと1時間もあればこの道を走って飯坂まで行けたのにと思うと誠に惜しいことをした。
後にも述べるが、桑折のあたりから南に折れるとほどなく阿武隈川に行き当たる。飯坂温泉に行かなくてもいいやという人はそちらを川沿いにたどって福島市街に出るオプションもある。

飯坂温泉とその向こう

飯坂温泉はかつては歓楽度高めの温泉街として大いに栄えた。昭和の世に飯坂といえばホテル聚楽。昭和のにせマリリンモンローによる「聚楽よ〜ん」のCMも懐かしい。

しかし現在はもっぱら斜陽の気があり、廃業した旅館ホテルも目立つという。この動画のように衰退を強調する声もあるが、むしろ歓楽色が排除されて静かな情緒を楽しめるようになったという見方もできるであろう。

温泉街を二分して流れる川は摺上川といい、ここから東に流れて阿武隈川に注ぐ。摺上川沿いの堤防道路はクルマも通らずサイクリング向きだ。

これが阿武隈川まで続いている。さらに阿武隈川沿いの堤防道路を行けば福島市街の中心部に至る。旅の終点にふさわしい。
飯坂温泉からは、福島交通の電車もJR福島駅まで走っている。東急のお古の電車だ。こちらで輪行するのも風流であろう。

逆向きルートも可ではあるが、蔵王町内はずっとなだらかな登りとなるので、遠刈田→飯坂がラクなのは確かだ。


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