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【ふくしま里みちサイクリング】 ブロンプトンsで福島は相馬松川浦を一周した話

福島県浜通りの相馬には震災前に一度行ったきりだった。
その後10年余が経ち、常磐道が開通して仙台から高速道で一本で行けるようになったり、JR常磐線が復旧して特急スーパーひたちが復活したりですっかり復興した相馬の町に所用が出来て行ってみたのである。

震災時の津波は相馬市外の東側を走る国道6号バイパスで止まったため相馬の町は被害を逃れた。バイパスの盛り土構造が防波堤となったのである。
相馬中村藩の城下町だった当時の面影はほとんど無いが、城址公園と堀は残されており、古い家もかろうじて点在する。

所用は午前中で済んだので、午後からはクルマに積んで来たブロンプトンでちょっと走ってみることにする。町の東側の海岸にある松川浦に向かう。

松川浦は海岸と砂州で隔てられた内潟湖である。
この砂州の上につくられた道路をサイクリングするのが風流とされていることを知り、走ってみることにした。
調べてみると、「松川浦しおかぜCR」と称して、相馬の町を中心に海岸から西側の山沿いまでをもぐるりと周遊するルートが紹介されている。

しかしわれわれは、おもにしおかぜだけ味わえればいいので、松川浦の外周をなぞって走るショートコースとした。

松川浦の北端一帯は旅館や飯屋が立ち並ぶ昔ながらの庶民的ビーチリゾートだ。
一度は津波ですべて失われたであろう町も、今ではすっかり復興して元の佇まいを取り戻している。夏のシーズンには海水浴客で賑わうのだろう。

2020年に出来た「浜の駅松川浦」に立ち寄ってまずは補給。
産直と地場の海産物を出す食堂から成っている。食堂は混み合っていたので弁当コーナーで買って外でランチとする。

わたしはホッキ貝とシラスの弁当。妻氏は「松川浦ピラフ」なるもの(タコの入ったピラフと、ホッキ貝入りサラダ)。加えてメヒカリの唐揚げ(これは前日にも食して気に入ったので今日も食う)どれもおいしい。
当地の漁業は未だにいわれなき風評被害に悩まされていると聞くが、がんばってもらいたいと思いつつ、もりもり食べた。

さて走りだそう。まずは立ちはだかる巨大な橋を渡る。内潟と海をつなぐ河口を跨ぐ松川浦大橋だ。

渡り終えると道は長大な砂州である大洲の上に続く。
車道は結構な交通量なので自歩道を使っていくが、工事中の箇所もあってややこしい。

左手に太平洋、右手に内潟の眺めが広がるが、自転車だともっぱら左側を走っているし、内陸民からするとやはり太平洋はアトラクションであるので、もっぱら前者ばかりに気を取られていた。この区間では内潟の眺めをほとんど気が向かなかったのがあとになって悔やまれる。

自歩道というか、堤防の上を走ったほうがより海に近くてワイルドな味わいがあると気づき、内潟の南端あたりまで堤防を走る。眺めはいいがコンクリの継ぎ目のタールの盛り上がりの段差が自転車にはつらい。

震災前は大洲の内陸側は松林が繁り、文字通り白砂青松の景勝を呈していたという。
津波で松林が全滅してからはや十余年、広大な跡地には松の木の苗が新たに植えられており、少しずつ育ちつつあるのが見て取れた。これが松林になるまでの月日の長さを想像するとともに、ふたたび新たな風景が作り直されるさまに感銘をおぼえるのだった。

内潟の南端にある磯部漁港を通る。

係留された小さな漁船を見れば、どれも「善寶寺」と記された小旗を掲げている。山形は庄内鶴岡の、海事全般の安全を司るあの善寶寺だ。

庄内から遠く離れた太平洋岸でこの旗に出会うのは驚きであったが、調べてみれば東日本一帯の漁業関係者が祈祷に訪れるという。御利益の担当区域が広いのである。

海岸サイクリングはここで終わり。針路は変わって松川浦の西岸を北上する。内潟では海苔、アサリ、牡蠣などの養殖が盛んという。(アサリはこのあと浜の駅で購入することとなる)。
潟と反対側にはヨシ原が広がり、小鳥の楽園になっていた。仙台の貞山堀も震災前はこんな風景の道だったことを思い出す。

潟沿いの小道は松川浦スポーツセンターに続く。スポーツといってもグラウンドゴルフ場で高齢者が遊んでいるぐらいなのだが。
ここには巨大な「丹下左膳の碑」が建っている。丹下左膳はもちろん昔の映画や芝居の架空の人物だ。

どういうことかと調べてみれば、丹下左膳は、刀剣コレクターである相馬中村藩の殿様から幻の名刀と探し出して来いとの命を受けて江戸に向かった剣豪というプロットになっているのだった。いやまあ確かに相馬つながりだけど、ちょっとこじつけが強い気がする。でもこれは今でいうアニメの聖地みたいなものかと思ったりもした。

この先は水辺を行く道は途絶えて車道を走ることを余儀なくされ、さっさと浜の駅に戻ったのであった。
本日の行程約20km。

帰りがけにふたたび浜の駅に立ち寄ったわれわれは、相馬産のアサリを一袋購入した。普段スーパーで見かけるものより一回り大粒だ。さっき通った内潟でつい今しがたまでのんびりしていたのかもしれないが、このあとわが家に連れて行かれてワイン蒸しとなり、われわれの腹に収まってサイクリングで消費したカロリーを補うこととなったのだった。


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