渦中から君へ20
シールの大好きな君。
今日も食品のおまけでついてくるアンパンマンのシールで遊んでいたが、すぐにアンパンマンの胴体と頭の間をちぎってしまった。
直せとぼくのところに持ってくるので、シールの粘着性を利用して無理やり繋げて返した。ひとまずはそれを受け取るけれども、とうぜんのことながらそれはすぐにまた破れる。すると君は泣き出してまたぼくのところに戻ってくるのだが、残念ながらもうアンパンマンは元には戻らない。君はそのことを受け入れない。いくら言ってもわかってくれずに君は泣きわめく。
仕方のないのでみおさんが押入れの奥から猫のシールを引っ張りだしてきて差し出す。すると君はようやく泣くのをやめ、そのシールで遊び始めた。
そのシールはみおさんが結婚するずっと前にかわいいと思って買ったものらしい。まさか自分の子どもをあやすために使うことになるとはその当時のみおさんは想像もしてなかっただろう。
昨日もぼくは寝かしつけのときに撃沈した。
最近は本当にお歌が好きな君にせがまれ、Apple Musicの寝かしつけプレイリストをかけたまま死んだらしい。おそらく君よりも先に寝たんじゃなかろうか。
ぼくはもう農業による疲れが限界にきている。
これは農業がきついというだけではなく、ぼくも悪かったと反省している。
4月中はトラクターや農薬の散布などの機械仕事が中心だったからよかったのだが、今月になってからはキャベツや白菜の収穫が続いている。これは重いものを持つ必要があってかなり体力がいる。にも関わらず、ぼくは意地を張って夜更かしをしようとしてきた。そこに無理があったのだと思う。もっとちゃんと睡眠をとっておくべきだったのだ。その大きな発見をみおさんに話したら、「うん、そうだと思うよ」と言っていた。そう、そうなのである。
しかし疲れがたまってしまったものはもうどうしようもないので、この農業生活の最終週である今週は、自分を甘やかすことに決めた。つまり週2回のランニングをせず、休肝日も設けない。そして寝かしつけで自分も寝ちゃいそうなら寝る。そうやってこの最終週を乗り切れば、来週からはまた元の生活に戻るつもりだ。
農作業中にずっと聴いてきたおかげで、ラジオクラウドはたくさん消化できた。3ヶ月分たまっていたアフター6ジャンクションは見事に追いつき、本当に久しぶりに「文化系トークラジオLife」も聴いた。この番組は1、2ヶ月に一度くらいのペースで日曜の深夜に放送していて、そのときに社会で起こっている様々な問題をライターや研究者たちが文化的に議論するのだが、実はもう15年くらい細々と続いている。ぼくは農業をやっていた5年くらい前に出会い、過去のものも遡って聴いた。何度かメールを投稿して番組内で読まれたり、ベストメール賞もらったりもしていた。しかしこれももう4年以上まったく聴いていなかった。この間にどういう議論があったのかすごく気になるのだが、もう農業生活も終わるのでその全てを遡って聴くことはできないだろう。Lifeに限らず、ほかにも久々に聴きたいと思っていた番組はもっとたくさんあった。そういうのをすべてカバーするには2ヶ月弱なんて短すぎたな。そしてもうさすがにこんなチャンスは起こらないだろうし、起きてほしくもない。
ばあばのうちに向かう車中で、君はじっと窓の外を眺めている。今朝は玄関で見つけた君用の小さな傘を持ち、それを開いたまま車に乗り込みたがった。雨も降っていないのに。
仕方なくチャイルドシートに座らせる前に一度力づくで傘を奪い、大泣きする君を座らせてから車内で開いた傘を握らせた。ほら、邪魔でしょ?でも君はばあばのうちに着くまで文句は言わなかった。
君は非常に音に敏感で、家の中にいても外から飛行機や救急車のサイレンなどが聞こえてくると「ひこーき」や「きゅーきゅーしゃ」と反応する。ばあばが全然聞こえないうちから君は反応しているらしい。
ただ君が「ひこーき」と言って反応しているもののほとんどはヘリコプターの音だったりするのだが、ヘリコプターと教えてもそれをうまく言うことができない。君もたぶんめんどくさいからひこーきって言っているのだと思う。
まぁいいやね、細かいことは。