【お題 DE フォチュカ★】短編小説『リヒトのメリークリスマス。』

 『クリスマス』をテーマに書きおろした、コウサカチヅルのオリジナル作品『フォーチュカロン』の短編小説です(ㆁωㆁ*)。

 リヒト視点で展開する、ちょっぴりシリアス? なクリスマスの物語、よろしければ聖夜のお供にぜひ⛄️

🎅🏼🎄🎂🍷🎁⛄️🎉

 クリスマスは、子どもの頃は全然うれしく思えなかった。

 雪が降ると濡れちゃって、なんか冷たいし。

 キレイなイルミネーションも、甘くてだいすきなはずのケーキも。

 『独り』だと味気なくて、どこか虚しくて。

 20年前から、たまにエンつんと過ごすようになって。

 今年はさらに、かろんがいた。

「リヒトさん、綺麗だねぇ!」
 真っ白な息を吐きながら、小柄で愛らしい少女がオレに笑いかける。

 オレと『蜜守契約』を交わした『蜜人』の女の子、久川かろんだ。

 オレたちは、かろんの家の最寄り駅前に、ふたりで来ていた。
 飾りつけられたロータリーは、こぢんまりとはしているけれど、トナカイや雪の結晶の形に配置された色とりどりの光たち、サンタクロースのオブジェもあった。
 へぇ、最近では花の形をしたライトなんかもあるんだな……プラスチックのような材質だ。水色にピンクがところどころ交ざったその明かりも、不規則に並んでいた。

 エンつんたちのいる冥府へ行く前に、かろんが寄りたいと言ったのだ。
「どしたの、かろん? 今日、冥府のクリスマスパーティだけど……」
「うん、ちょっとね……はい、これどうぞ!」

 ファーのついた白いコート姿のかろんは、背中の小さな革のリュックをおろすと、包みのようなものを取りだしてオレに差しだした。
「メリークリスマス、リヒトさん♪」
「……え」

 目が、点になった。だって。
「あれ? これから冥府のパーティで、プレゼント交換もするよね……?」
 オレも、だれに当たるかわからないそちら用のプレゼントは、用意させてもらっていたのだけれど……(5回だけ実体化して、なんでも言うことをきいてくれる『式』にした)。
「ふふー」
 かろんは、いたずらっぽく笑って、うきうきした様子で答える。
「これはプラスワンのお礼です!」
「お礼?」
「あのね、リヒトさんはいつも私と居てくれて、いっぱい守ってくれて、あったかい気持ちをたくさんくれるから!」
 彼女の輝く瞳から、目が離せない。
「えと、開けてみて!」
「う、うん……」
 半分呆けたようになりつつも、言われたままに包みを開ける。
 光沢あるブラウンのリボンに、深緑をしたそれから出てきたのは……。
「――! 手袋……」
 柔らかい、モカブラウン色をした手袋。
 シンプルで華奢なデザインは、今着ているチャコールグレーのコートともよく合いそうだった。

「リヒトさん、冬になってからいつも手が真っ赤なのに、手袋しないんだもん」
「え、うそ……」
 周りから浮いたら困るので、一応コートは毎年着ているけれど、自分の手の状態なんて気にしたことがなかった。慌てて見遣ると、確かに手指は赤く、かじかんでいた。
「……えっとね、上手く言えないんだけど」
 かろんはオレの空いているほうの手を、飾りのついた黒い手袋をしたまま、そっ、と包みこんだ。
「もう、リヒトさんは『冷えきってた自分』に気づけたんだもん。だからこれからは、もっといっぱいあっためよう。――あっためて、いいんだよ……」
 優しく、オレの手をさするかろん。
 それから、『とりあえず今日はこのデザインで赦してね』とはにかみながら、プレゼントの手袋をそっとオレにはめてくれた。

 オレは。
 今この子に、なにも返せるものがない……。
「ちょっとごめん!」
「え……きゃっ」
 オレはかろんを抱え、ひょいっと高く跳ぶ。何度か移動を重ね、近くにある中で一番高い建物の屋上へと到着した。
 そっとかろんを降ろすと、屋上の、背が低い手すりの近くまで来て手招く。
 かろんも、ぱたぱた、オレの近くで下を覗きこむ。
「……!」
「あの、すっごく大きめなイルミネーションではない? から、あまり変わらなかったかな……」
 オレがしゅん、としていると、かろんは頭をぶんぶん左右に振って、オレの腕にしがみついた。
「ううん! ほら見て、リヒトさん!」
「え……?」
「お花のライトの色、上から見るとハート型になってる!」
「……!」
 ロータリーの中央部分へ敷きつめられるように置かれた、水色を多く占める花の照明は、時たまV字にピンク色が配置されていて、高所からだとハートが躍っているように見えたのだ。
「ねぇ、上からじゃないとわからなかった。連れてきてくれてありがとう、リヒトさん!」
「うん……」
 きらきらきらめく小さな光の湖を、かろんと眺める。
「すごくかわいい……」
「――が、かわいい」
「え?」
「ううん。オレのほうこそ手袋、本当にありがとね、かろん。絶対ずっと使う。……そろそろ行こっか」
「えへへ、そうだね、そろそろ。早めに出たから充分間に合いそう!」
 オレは、冥府に行くべく、可憐な笑顔を浮かべたかろんへ、手を差しのべる。


 さっきの言葉、かろんに聞こえていたら、オレはどうするつもりだったんだろう。


 ――『かろんのほうが、かわいい』と。

【終】


🎅🏼🎄🎂🍷🎁⛄️🎉


 ここまでお読みいただきまして、誠に誠に、ありがとうございました!

 素敵なクリスマスを💕

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