ハレもケもハレ8 : これからの「ふたり」の話をしよう( 後編 )
お付き合いをしている彼と同棲を検討し始めたのをきっかけに、人生とは?結婚とは?家族とは?を考え始めた今の心境を書き綴ることにしました。
経緯はこちらから : ハレもケもハレ0 : 人生の岐路に
立っている気がするので、書き記すことにしました。
∴過去エントリー
1 : 家探しを始める前から、問い合わせをするまで
2 : 「あなたの幸せを思って」と母から言われたけれど
3 : まだわたしは何者にもなれていない
4 : 彼が入院するらしい
5 : 私は家と結婚するのか
6 : 食う寝るところが住むところ
7 : これからの「ふたり」の話をしよう( 前編 )
具体的に結婚の話を進めたときの話、後編です。
苗字はどうする?夫婦別姓?事実婚?甘やかな気持ちだけでは進められない「これから」のことを真剣にふたりで話したときのこと。
よければ前編から通しでどうぞ。
◎エッセイの都合上、フルネームを仮に「中村あおい」としています。
完全に仮名ですが、同じくらい姓名ばらばらでも
フルネームの響きとしてもありふれた名前を
イメージしていただけると幸いです。
🕊
彼と結婚して、苗字が変わる。
それはずっと憧れてきたことだった。けれどいざ実際に予定として迫ってくると、心がざわついたのも嘘ではなかった。
全国多い苗字ランキングがあればわりと上位に来るわたしの苗字と、一部の地域にしかいない珍しい彼の苗字。引き換えるにはちょっとなんだか不釣り合いな気がする。
自分の苗字がずっときらいだった。
歳を重ねるうちにすっかり嫌いになってしまった父方の親戚と同じ苗字なのも、ありふれていて同姓同名がゴロゴロいるのも嫌だった。幸い下の名前は好きだし、患者さんがたも覚えやすいのか下の名前で呼ばれることが多い。
だからこそ、ずっと彼の苗字が欲しかった。その気持ちに揺らぎはない、のに。
「結婚して苗字が変わることに対して、嫌な気持ちはまったくないの。寧ろずっと憧れてたし、今の自分の苗字は嫌いだし、あなたと同じ苗字で生きていきたいって気持ちは十二分にある。でも、もう中村あおいとしての人生がそこで一区切りついてしまうんだなと思うと戸惑ってしまう。
あなたの生活は結婚したこと以外あまり変わらないのかもしれない。でも、苗字をもらう側は同じようにひと続きには考えられないよ。名義変更の手続きは気が遠くなりそうなほどあるし、印鑑だって変わるし、なによりオフィシャルの場で自分を呼ぶときの名前が変わるんだよ。」
「……たしかに、考えたことなかった」
しつこいようだが、そういう違和感を感じている上でもわたしは彼と結婚したいと思っているし彼の苗字は欲しいのだ。その上でただ、そういうザラついた気持ちがあることを知っていてほしいだけである。
結婚したら、24年間親しんできた「中村あおい」という名前をフルネームで書く機会はおそらく殆ど無くなるだろう。そのことに戸惑ってしまっていた。まるで、どこにも24歳までのわたしがいなくなってしまうようで。24年分の中村あおいという人生が、そこで潰えてしまうようで。
マリッジブルーという言葉はよく耳にしていたけれど、その根っこにあるのはこれだったのではないかと勝手に思った。それならあまり男性側のマリッジブルーを聞かないことにも合点がいく。
話を聞いていてハッとした彼が、すこし悩みながら言葉を続けた。
「……あなたが望んでないのは分かったうえで伝えておくけど、俺が中村になるっていうのもありだよ。
あと、可能なら職場では旧姓のままっていうのもアリなんじゃないかな。あなたは結婚しても中村あおいという人間であることに変わりはないのだし。」
「それは、……ありがとう。たしかにね、そうね」
たぶん言葉を選びながら、でもまっすぐ伝えてくれたことがなにより嬉しかった。夫婦別姓、事実婚、どちらの苗字を名乗るか。人の数だけきっと考えに違いはある。勝ち負けを決める話し合いがしたかったわけではなくて、それだけ大きなことを話しているのだと、分かってほしかっただけなのだ。それに、結婚してもわたし個人に変わりはないことをちゃんと当たり前のように分かってくれていて安心した。
「……あと、これは我儘だけど…指輪や花束は要らないから、どこかで区切りとして、その、…プロポーズ、してほしい。たぶん、人生で一度きりのことだと思うから」
「それは、我儘なんかじゃないよ。
任せておいて。踊るね」
「やめて?????????」
結局2人のなかで「2022年を目処に一緒になることを考える」「苗字は彼のもの。ただ職場では可能なら今の中村姓で働き続ける」ということがきちんと共通認識になった。すっきりした。
真面目な話をちゃんと取り合ってくれるところや、きちんと対話をしてくれる、彼のこういうところが好きだ。2人のこととして一緒に悩んでくれるところが。あとこうして急に真面目な顔してたまに冗談を言うところが。
これから先もこんなふうに、この人とずっと対話しながら人生をひとつずつ選択していけたらどんなにいいだろう。甘やかな日々ばかりじゃないことはさすがに分かっている。イラッとすることだって沢山お互いにあるだろうし、喧嘩する日もあるのだと思う。
けれど、向き合いたいと思い続けられたらいいなとは思った。好きの裏返しは、無関心だから。
どうか飽きるまでこんなふうに話し合い選択する日々が続いて、それが結果として永い日々になりますように。今はそんなふうに、願ってやまない。
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