見出し画像

ハレもケもハレ7 : これからの「ふたり」の話をしよう( 前編 )

お付き合いをしている彼と同棲を検討し始めたのをきっかけに、人生とは?結婚とは?家族とは?を考え始めた今の心境を書き綴ることにしました。

経緯はこちらから : ハレもケもハレ0 : 人生の岐路に立っている気がするので、書き記すことにしました。
∴過去エントリー
1 : 家探しを始める前から、問い合わせをするまで 
2 : 「あなたの幸せを思って」と母から言われたけれど3 : まだわたしは何者にもなれていない
4 : 彼が入院するらしい
5 : 私は家と結婚するのか
6 : 食う寝るところが住むところ

今回は、ひょんなきっかけから結婚について真剣に話し合ったときの話です。今回の話は長くなるので、前後編に分けさせてください。


🕊


世の中の感染事情がすこし落ち着いてきたのをいいことに、実家のある福岡へ、11月に帰省することにした。上京して働き始めて以来、離れて暮らす九州の両親に会った日数は片手で足りてしまうのはさすがに良くないなと思いたってのことだ。とはいえ家族以外の誰に会うことも叶わないのだけれど。

そこでふと思い出したことがあり、検索ウィンドウを開く。航空券の検索より先に開いたのは彼が長年ファンをしている川崎フロンターレの11月試合日程だった。

……おっと?


冗談半分で調べたけど、鳥栖で試合やるやんけ。


前に「アウェー戦の観戦がてら来なよ」なんて話していたけれど、まさか本当に試合があるとは思わなかった。本当はアビスパのほうが本拠地として近いけれど、博多駅からであれば鳥栖もそう遠くないはずだ。
それに彼はもともとキャンプのために沖縄へ行き、アウェー戦のために北海道へ行き、国際試合のために韓国まで行っていたような男である。鳥栖だろうが博多だろうがこの際変わりはないだろう。

彼に電話をかけた。そしておずおずと、本当におずおずと、「これはただの面白がっている提案というか」「強要したい気持ちは全くなく、ただ偶然すぎて面白くて」と前置きをしながら「帰省しようと思ってた日のタイミングで鳥栖と川崎が試合するみたいだけど、一緒に来る?」と聞いた。聞いてしまった。

「行こうかな」

ほんとに??????

あまりにもあっさりと彼が言うので思わず聞き返してしまった。「え、本気で言ってる?」「いや、提案してきたのあなたでしょ」「そうだけど、ほんとに乗ってくるとは思ってなかったというか。来てほしいと思いつつもどうせ来ないだろうなって、ダメ元で飲み会に全然来ない人誘ったみたいな感じというか」「なにそれ」

いやいや誘っておいてそれは反則でしょ、と彼が笑う。それもそうですねすみません。いや、でもさ。

「たしかに誘っておいてなんだけど、だって、その、なんというかさ、……重くない?」

「……まあ行動としては大きいけど。機会があればご両親に挨拶はしたいと思ってたし。サッカーあるなら丁度いいでしょ。その、あなたが言う『会うことだけを目的に福岡まで一緒に行く』訳じゃなく『サッカーをついでに観る』って名目があった方が」

まあたしかに。わたしが言いたいことを汲み取ったうえで的確に、かつ嬉しいことを迷いなく返してくれるあたり、ほんとうに聡明な人である。「重い」を「大きい」に言い換えてくれるところも。


「とはいえ、その…こういうのは電話ですべき話じゃないだろうから、いつかちゃんと話したいんだけど…今後のことって考えてたりする?……その、だってまだ早くない?今すぐというのはどうだろうとか、いやでもいずれはとか、考えてて」

「電話ですべきじゃないって自分で言いながら話してるやん」


たしかに。


それにさ、本音を言うとだけど。と彼が言葉を続ける。

「2人のことなのに、男だけにイニシアチブ握らせるのよくないと思うよ。だから、ちゃんと今度話そう」


ぐうの音も出なかった。



そうして色々なことを考えながら、会う日になった。仕事終わりに家へお邪魔すると、在宅ワークの彼はとっくに仕事を終えていて、ご飯を作って待ってくれていた。いつも通りたわいもない話をしながらご飯を食べて、落ち着いてから各自あたたかい飲み物を飲みながら話す。

「この前の話、掘り返してもいい?もうすこし時間おいたほうが良ければぜんぜん別の日でも」

「いや、今日話そう」


切り出したのはわたしのほう。

「結論から言うと、僕は2022年のあいだを目処に一緒になれたらと思ってたんだけど、あなたはどう?」

大切なことをまっすぐ簡潔に伝えてくれるのは彼のほう。これは、恋人になるときのやりとりと一緒だな、と頭の片隅で思う。

「わたし、は。」

さんざんこの数日間で考えていたはずなのに、ちっとも言葉にならなかった。待ってね、えっと、えっ、あー、うーん、や、考えてたのずっと、ちゃんと。ただね、あー…とさんざん唸って、もそもそと話す。


「それには大いに賛成だし寧ろうれしい。
だけど、これは誰とこういう話をしてもだろうし何年経っても同じことを思ってると思うけど、わたしがわたしで無くなってしまうことに、すこし戸惑ってる。あと、人生が動いてるな、大きな選択だなと思うと、怯む」


“2人のことなのに、男だけにイニシアチブ握らせるのよくないと思うよ。”

ここ数日間のわたしの頭の中を占めていたのは、この前の彼の言葉と、ずっとここでも綴ってしまうほど迷い続けていた「まだ何者にもなれていないのに苗字を変えていいのか」という気持ちだったのだ。今、やっと分かった。


「……ごめん、ちょっとイメージ湧きにくいから、もうすこし、その話聞いてもいい?」


これは多分、「苗字が変わる」側だけが抱く戸惑いなのだ。
「一緒になれる!わーい!やったー!ハッピー!」なんて甘やかで軽やかな気持ちだけでわたしは自分の人生をヒョイと動かせるほどのしなやかさを持ち合わせていないみたい。でもこの感情から多分、目を背けてはいけない。


「……うまく説明できるか、分からないんだけど聞いてくれる?」


歯切れが悪いまま、言葉を選ぶわたしを、やさしい眼差しで彼がジッと見つめていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?