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第四話 ホーチミンのスーパーマーケットファンタジー 2019年4月のベトナム・ホーチミン旅行記 二日目その3

庶民派スーパー コープマート

GRABを用いてホーチミン中心部に近いスーパーマーケット、コープマートへ。

海外旅行の度に地元のスーパーに必ず寄ることにしている。
地元の一般的な日用品と、その相場を確認するのに最も便利な場所だと個人的に思っているからだ。
特に東南アジア諸国は値札が無い小売りが大半を占めており、観光客には基本ぼったくられる文化が根付いているため、現地の相場を気軽に確認できるのは地元のスーパーマーケット以外ない。

ホーチミンはベトナム最大の経済都市とは言え、まだスーパーマーケットという形態の小売りはそこまで一般的ではないように思える。

一応、中心部にはそれらしい店がないことはないのだが、その多くは富裕層や外国人観光客向けの外資系高級スーパー(例えるなら成城石井にような所)であり、今回の目的にはそぐわない。
狙わないとローカルな庶民的なスーパーに行くことが困難な環境であるため、わざわざ配車アプリを使ってこのコープマートまで赴いたのである。

この種の店をあまり好まないSには申し訳ないとは思うが、GRABを使えば格安で労せずピンポイントで行きたい所に行けるので、このような個人の我儘も容易に通せる。本当に配車アプリは海外旅行の革命だ。


早速店内に入る。
日本のスーパーと最も異なる点は入店してから手荷物類一式をクロークに預けなければ商品棚があるスペースに入れないことである。万引き対策なのであろうが、いちいち荷物を預けるのは正直面倒である。クロークのスペースを店内に割いたり、管理のために人を雇うのは人件費の無駄ではないかと思うのだが、万引き対策の方に重きを置いた方がメリットがあるのがベトナムという国なのだろうか。

ローカル色が非常に強いスーパー、と各種ガイドブックやウェブに記載されていたため、池袋北口にある中華系スーパーや上野地下街のような所を創造していたのだが、意外な事に綺麗で整然としている。つい数十分前まで混沌の象徴とも言うべき中華街の問屋街を闊歩していたせいもあるだろうが、ちゃんとしたスーパーマーケットの形態を保てていることにちょっと驚く。外国人観光客である我々にとっては与しやすいことこの上なく助かる。

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ざっと店内を物色するも特に奇異に映るものは見当たらなかった。

勿論、日本の一般的なスーパーでは見受けられないものも多かったのだが、ベトナム人が実利主義なのか、質実剛健さを尊ぶ国民性なのか、中身が見える透明なビニールに一目でわかる商品のイラストや写真が描かれた極めてシンプルなパッケージのものばかりであったため、パッと目に付くものは少なかった。

これはチュ・クオック・グーと呼ばれるベトナム文字がラテン文字、所謂ABCのアルファベットで記載されているため、インパクトがそこまで感じられない、というのもあるかもしれない。繁体字、簡体字、ハングル、タイ文字等と比べれば、髭のような記号がついてこそいるが、ベトナムの文字は普段から見慣れているABCのアルファベットであり、新鮮味がそこまで感じられないのだ。

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と、そうは言いながらも、整然と異国の品々が立ち並び、東南アジア特有の鼻腔を付く生臭い臭いが漂う空間を闊歩するのはそれだけで楽しい。特にクーラーがガンガン効いているので熱帯特有の湿っぽさから解放されつつ、異文化体験をできるのは快適そのもの。

MAXコーヒー@サイゴン

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最も印象に残ったのはあの千葉県名産の缶コーヒー、MAXコーヒーが山積みにされ売られていたことである。

あの何よりも甘い、甘すぎる狂気のコーヒー、MAXコーヒーがベトナムに輸出され庶民派スーパーで特売品として売られているとは思いもしなかった。

個人的にこのコーヒー缶を見ると千葉の工場で働いていた頃の暗黒時代が想起されるため、胸が苦しく締め付けられる。


ベトナムは世界2位のコーヒー豆輸出国ということもあり、コーヒー文化が根付いているが、コンデンスミルクをドバドバ入れた矢鱈甘いコーヒーを好んで飲む特異な文化がある(ベトナムだけではなく他の東南アジアでもそうなのだが)
そのため、ゲロ甘のMAXコーヒーはベトナム人の嗜好に合うのではないか、とコカ・コーラボトラーズジャパンの誰かが考えて大規模な輸出攻勢をしかけたのかもしれない。

しかし残念なことに手に取っている地元民は全くいなかった。


明らかに退屈そうにしているSに「MAXコーヒー売っているよ!すごい!でも誰も買ってない!面白い!」と声をかけるも「MAXコーヒーってなんだよ。知らねえよ」とつれない返事。てっきり全国区だと思っていたのだが、そこまで一般的ではないのだろうか?

スーパーの値札から推察したベトナムの物価

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ちなみに物価は(勿論物にもよるのだが)大体日本の2分の1から5分の1くらい。

野菜や魚などの一次産品は安く、加工品は高い。
特に海外ブランドの輸入品(キットカットなど)は殆ど日本と変わらず、ものによっては日本以上に高い。

全体的に安い、という訳ではないが、多くの地元民が躊躇することなく籠に商品を入れていたので、このスーパーの価格設定は特別高い値段設定という訳ではないのだろう。

ベトナムの平均年収が41万円、ということを考えると全体的に物価は高いのではないか、と思ってしまうが、ここ10年でベトナムの平均年収は2倍になるなど経済成長も著しいので日用品の価格なんぞ将来の確実な収入増を考えれば些事なのかもしれない。

それとも30年近く経済が停滞し、給料がまったく底上げされず出口がまったく見えないわーくにがあまりに酷すぎるだけなのかもしれないが。

何も買わないのも勿体ないため、日本では(ストレートでは)あまり手に入らないベトナム産コーヒー豆と、ガイドブックやウェブの口コミで評価が高い調味料であるレモン塩胡椒・ライム塩胡椒を購入。
Sは予想通り何も買わず。

サッカー台が無いスーパーは効率が悪い

物品購入後、預けさせられた荷物を返してもらうためクロークに行く必要があったのだが、中々の列で待つ必要があり萎える。

手荷物返却後、即座にカウンターを離れてパッキングすれば良いのに、カウンターでパッキングを行う人間が大半。スーパーという特性上、殆どの客は結構な数の物品を購入しているためパッキングにもそれなりに時間がかかる。そのため列が中々捌けない。

サッカー台が置かれていないので仕方がないのかもしれないが、明らかに改善点が分かる状況で改善する気配がない他人の行動で待たされるのは非常にストレスが溜まる。これも異文化体験、と大らかに構えられれば良いのだが、自分はそこまで優れた人間ではない。結局10分ほど回収まで時間がかかってしまった。

薄暗いスーパーのゲームコーナー

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外に出て次の目的地へ、と思ったのだが、不思議なことに上へと続く階段がある。ここは荷物持ちの身分でも問題なく登れるようである。一体何があるのやら。

登ってみるとそこはちょっとしたゲームコーナー。
サイケデリックな塗装をされた動物のエレメカや、年季の入ったメダルゲームが設置されており、なんとも懐かしい気持ちに。

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自分も子供のころ、親が買い物をしている際は隣接されたゲームコーナーをウロウロしながら待ったものであるが(ゲームは基本やらせてもらえなかったので、他人がやっているのを後ろで見ていただけだが

ベトナムの庶民派スーパーにもこの種の文化があることにちょっと感動。

だが日本のこの種のゲームコーナーは防犯上の理由と子供を引き寄せるために明るい照明とキラキラした電飾に彩られているのが普通ではあるが、ここベトナムでは異常に暗い。
1階のスーパー本体は非常に明るかったのだが、ここはベトナムスタンダードの暗い照明という地位におかれているのが面白い。

ベトナムの貨幣はすべて紙幣であり硬貨はない。紙幣で動くとは考えられないので、どうやって子供たちは遊んでいるのか、と疑問に思ったのだが、答えは単純、現地紙幣とメダルを交換するカウンターがあり、そこで交換されたメダルを使って遊戯を楽しむ仕組みになっていた。

子供たちは皆メダルゲームに夢中。サイケなエレメカアニマルには誰一人興味を示していなかった。ちょっと悲しい。流石に30超えの男二人で遊ぶのは忍びないため適当に周囲を闊歩するだけにとどめた。


ちなみにこのカウンターもすべて人力。両替機のようなものはなし。防犯上の観点から人力で係員を置いているのだろうが、労働人口が多いベトナムだからこそできるシステムであるとつくづく感じた。

結局歩いて次の目的地へ

1時間ほどの滞在でスーパーを出る。

GRABにて入った時は全く気付かなかったのだが、入口周辺にはコープマートを取り囲むように屋台が林立していた。ちょうどお昼の時間帯であり、この屋台でランチでも洒落こむか、と周囲をグルグルと歩き回ったのだが、食事を提供する場所が一切なし。

どの屋台もスーパーと確実に競合する一次産品の食料品一択という謎。

このコープマートにはフードコートはなく、軽食類も取り扱っていないので、買い物帰り客をターゲットにしたフォーの等の食事を提供する屋台にすれば確実に儲かると思うのに何故わざわざ強力なスーパーとコンピートする野菜類をわざわざ売るのか。案の定、この屋台で野菜を購入している地元民は殆どいなかった。ホーチミン地元民の考えは分からない。

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とんだ無駄足になってしまったが、一度昼食食べたいモードになってしまうと、その欲望を抑えるのは困難である。

次の目的地までGRABで行くつもりであったのだが、良い感じにローカルな雰囲気漂うエリアであったので、次の目的地方面まで歩きながらローカルな食堂を探し、そこで昼食を取ってからGRABにて移動することにした。

だがこの判断が結果的に失敗だった。

行けども行けどもお店がない。

このエリアは特に観光客が訪れるような場所がない所のようで、ガイドブックにも特に記載がない。またグーグルマップでは食堂があることになっているのだが、実際行ってみても全くそれらしき店がない。

困った。

どうやら再開発エリアのようで至る所で工事がされており、グーグルマップはアップデートが追い付いていないようであった。これも成長著しいベトナムだからこそもトラップであろうか。解体中の建物と建築中の建物が交互に並ぶ灰色の街をお昼の口になった状態で歩くのは精神的に応える。

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結局20分ほど歩き、次の目的地である現地ツアー旅行代理店街の入り口近くにまで至ってしまった。そしてここに来てようやく食堂を発見。

変な欲を出さずに大人しくGRABを使っておけばよかったよ。

折角のホーチミン旅行なので、ローカル色の強い地元の料理、と思ったのだが、この店はNBAのレイカーズのユニフォームを着込んだ墨入れたアメリカかぶれの若い兄ちゃんがやっているお店。

メニューを見るとフライドポテトやバッファローウィング、ハンバーガーら如何にもなアメリカンフードに交じって、チャーハンや焼きビーフン等の簡単中華料理に何故かタイ風カレーなどいまいちコンセプトの分からないお店だった。

焼きビーフンとつみれのスープのようなものを注文。お腹が空いていた筈だが特に味は印象に残らなかった。

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20分程度予期せず歩いただけなのだが、この時は酷く二人とも気落ちしてしまっていた。今までGRABのお陰で快適且つ超効率的な旅行を楽しんでいたのだが、ちょっとした判断ミスで無駄に歩く羽目になり、成果を上げられなかったことに対して失望していたのではないかと思う。

今までSと二人で何度も旅行をしてきたが、毎度効率とは程遠い、無駄に歩き回ることばかりしてきた。この程度の徒歩移動など大したミスでも何でもない筈なのだが、下手にGRABという文明の利器に触れたため、嘗て行ってきた行き当たりばったり旅行が急に陳腐なものに思えてしまったからかもしれない。旅行に想定外や失敗は付き物であるのに、当時の我々は革命的な暴君GRABに完全に心酔しきっていた。

とりあえずお腹は満たすことはできた。次は旅行代理店で明日のローカルパッケージツアーを予約しなければいけない。そもそも明日、旅行会社の力を借りて遠出しようと漠然と考えていたのだが、どこにするか、何をするか全く決まっていない。昼食をとりながら二人で話し合うも全く決まらず。

結局、旅行代理店についてから適当に流れで決めることになった。

旅行はこのくらい適当でもいいよね。うん、そうだよ

旅の本質を再認識し、いざ旅行代理店へ

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