読書感想『温室デイズ』ちりも積もれば希望は現実になる?
3月になって、少しは春らしくなってきた。気づけばもう卒業シーズン。いつだって時がたつのはあっという間。こんな時期におすすめしたい作品!
瀬尾まいこ作 『温室デイズ』 角川書店 2006年
瀬尾まいこさんのいちファンとして、全書読破を目指したい!
あらすじ
学校で革命でも起こす気か…!?と私は思ってしまった。壊れた学校を、魅力あるリーダーが率いて立て直していく。そんな話を想像した。しかし、いつだって瀬尾作品は日常の直線上にある奇跡を描く。
それは静かな革命だった
学校は荒れている。中3のみちるはいじめられ、おなじく優子は不登校。
この2人は友達どうしだが、彼女らが協力して学校を立て直していくわけではない。
彼女らは、どちらも個人プレイだ。みちるはどんなにいじめられようとも、毎日必ず通学する。「学校に行くのは当然のことだ」という信念があるからだ。一方で、優子は荒れた学校を避けるようになり、不登校を選ぶ。
彼女らの立ち位置は変わらない。みちるはずっと「いじめられっ子」で、優子はずっと「不登校児」だった。(最後の方で緩和されてくるけけれど)
まあ、作中ですぐに、劇的にみんなが変わるなんてことはない。
それでも、卒業する頃にはクラスの状況に少しだけ変化が現れた。学校の活動に真面目に参加する生徒がでてきたり、不良がマイルドになってきたりした。それは、登場人物どうしの「ポジティブなバトン」の受け渡しによるものだと思う。例えば…
➀優子が心の相談ルームでカウンセリングを受ける→優子がカウンセラーのまね事を通して、瞬の話を聞いてあげる→瞬の心がほぐれ、少し大人しくなった
②スクールサポーターの吉川が「努力は裏切らない」という言葉をみちるにかける→ みちるは吉川のこの言葉で空手を本格的に再開し、強くなろうとする→強くなったみちるが、レンガで自分の額を打って瞬の乱暴を止める
このように、人物同士が人と関わり合うことで、ちょっとずつ自分も学校も良くなっている。本当に少しの進歩だけど…
登場人物たちは、自分たちがすぐに学校を元通りにできるとは思っていない。そんなに自分たちが強いとは実際に認識していない。
小さな希望も積もれば、山となっていく
たしかに、一人ひとりの力は小さい。けれど、少しでも希望を捨てない気持ちがあれば、事態は良くなるのかもしれないということを、この作品は教えてくれた。
ウクライナの事態だって、私にはロシアの侵攻は止められない。けれど、一人ひとりの心の持ち様で、ちょっとは何か変えられるかもしれない。
だから、ニュースを見て、身近な人たちとお話ししよう。
もっといい明日のために。