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初海外一人旅の孤独に打ち勝つ
常夏のバンコク、金ピカでキラキラしたお寺とセルフィーをする人々の中で、すっかり意気消沈していた。
バンコクに到着した時は深夜だった。明るい音楽と照明にホッとした気持ちになった。トランジットの為、武漢の空港で過ごした6時間は、寂しい気持ちを大きくしていた。そして、日本を出発して13時間、常に気を張っていたので、とても疲れていた。
初日は深夜に到着することもあり、空港の近くの送迎付きのホテルを予約していた。予めホテルに送迎が本当にあるのか、深夜到着でも必ず来るのか、しつこくメールで確認していた。返信には送迎はあるけど、タイミングによっては車が到着していないかもしれないから、誰もいなかったらホテルに電話してね、といった内容だった。
到着ロビーは沢山の人が送迎の対応をしていた。ホテルからのメールには、名前を書いて待っていると書かれていたので、自分の名前を探すも、どこにもない。ホッとした気分が徐々に不安に塗り替えられていく。ホテルに電話をする為にはSIMカードを差し替えないといけないが、バックパックの奥底に入れてしまったし、そもそも初めてのタイ、初めてのSIMカード差し替えで、治安もよくわからない状態で作業するのは危ないと思った。なので、そのままウロウロし続けた。大学では英語を学んだし、カナダにも留学をした経験があるにも関わらず、誰かに助けを求める勇気が全く出なかった。
そうしてウロウロしている私に親切なおじさまが助けを申し出てくれた。ホテル名を伝えると、あの女性に声をかけるといいよ、と教えてくれたのだ。命の恩人だと思った。女性に声をかけると、そこで待ってて、と微笑んでくれた。ここで微笑みの国に来たのだと実感し、ほっとした。そこからはスムーズにホテルにチェックインして、ツインベッドの部屋で1人爆睡した。これは余談だが、微笑みの国というのは観光の為に作られた言葉なのだ、と旅行中に出会った、バンコクに3ヶ月住んでいた大学生が教えてくれた。そしてタイにも意識高い系はいるし、疲れている人もいっぱい居るらしい。
翌朝はアラームで飛び起きた。昨夜アラームをセットしていないのにも関わらず、6時に起こされた。怖い。タイにもお化けがいるのかと怖くなったが、朝だったのですぐに忘れた。
そのまま市内に向かう。ノースリーブを着ていた私は、カーディガンはいらないなと思い、その日宿泊するゲストハウスに置いて来た。何にでも使えるスカーフがあれば大丈夫だろうと思っていた。
バンコクといえば、三大寺院。ということでゲストハウスのお兄さんに地図をもらって、船で向かった。船乗り場がディズニーランドのジャングルクルーズの乗り場と似ていた。一番最初に閉まってしまう、ワットプラケオから観光することにした。そのまま団体客に混じり進んでいく、、が、おばちゃんに止められた。もしおばちゃんが職場の上司で、怒られたら結構へこみそうな感じの厳しい目で確認していた。スカーフをめくられ、ノースリーブを着ている私に、これでは入れないから、入るんだったらTシャツを購入してってことだった。何故、カーディガンをゲストハウスに置いて来たのだろう。うーん。。後悔してもノースリーブでは入れないので、Tシャツを購入することにした。Tシャツやさんは建物の中にあり、一番シンプルなゆるキャラな感じのゾウさんが描かれてあるグレーのTシャツにした。ゾウさんは紫色で描かれていて、汗の色が目立ちそうなTシャツだった。率直にいうと、ダサいTシャツだ。後からガイドブックを見ると、ドレスコードがあることが目立つように書かれていた。
ワットプラケットはガイドブックで見るよりも、華やかで、ゴージャスで、可愛くて、写真映えしていた。建物の周りでセルフィーをしている人で溢れていた。今回は一人旅なので、私もスマホで自撮りをした。写真を見ると、ダサいTシャツを着た、真顔の自分が写っていた。何枚か撮って見るが、同じような写真が増えていくだけだった。誰かに撮ってもらおうと思い、暇そうにしている中国人のおっちゃんに写真を撮ってもらった。今度は真顔の私が全身で写っていた。写真を撮っていただいた事に感謝して、日陰で休む事にした。
私の目に映るのは、家族や友達、カップルで楽しく写真を撮っている姿だった。インスタの女王かのような神々しいポーズで写真に映る、お姉さん。人とは違った角度から被写体をカメラで撮る息子を褒めるお父さん。彼氏がびっくりさせようとして高所で後ろから脅かして、下に落ちそうになったから、彼氏の胸ぐらを掴み死ぬほど怒っている彼女。
人間観察をしながら、初の一人旅だというのに楽しいどころか、また寂しくなっていた。どれだけ寂しがりやなんだよ。1人旅、向いてないなあ。台湾は友達と頬が痛くなるまで笑ったっけ、と鬱々としていた。そのまま人間観察をしてぼーっとしていくうちに、何故一人旅に来たんだっけと改めて思った。9年付き合った人とお別れをして、目指していた夢も諦めた自分を癒そうと思い、しばらくは好きなことだけをやろうと思ったんだ。友達と行ったカンボジアが楽しくて、アジアに行こうと決めていた。初めてだし、治安はそんなに悪くないタイに決めて、ミラーレスにオールドレンズ付けて、自分しか撮れない写真を撮って、知らない人と話して、知らない文化を経験したいと思ったんだ。
よし、楽しもう。
それからはお寺の装飾を自分好みに撮る為にカメラの設定に没頭していたので、観光客の中でも楽しく過ごした。また、日本とタイの参拝方法の違いも面白いし、何より華やか装飾に感動していた。撮った写真を絵に描いたり、ステンドグラスにしたいな、と旅の余韻を楽しむアイディアも浮かんできた。
その後もセルフィーをしてみたが、やっぱり真顔や苦笑いの写真しか撮れなかった。でも、もう寂しくはない。
バンコクでは空港で助けてくれたおじさまに始まり、ゲストハウスで出会った人、カフェのお兄さん、チョコレートショップのお姉さん、観光地で話したインドネシアの大学生、写真を撮ってくれた中国人のおっちゃん、横断歩道を渡るのに苦戦していたら、車が止まって、今のうちに渡りな、って助けてくれたおっちゃん、おいしいご飯屋さんを教えてくれたお姉さん等、色んな人と交流出来た。人見知りなので、話しかけるのに勇気が必要だったが、みんな親切だった。
一人で海外にいると寂しさを感じる自分もいる事も発見したし、それを感じつつも楽しもうと思える自分も発見できた。友達との旅行も楽しくて大好きだけど、一人で旅行する方が気づきが多い。
これだけ寂しがりやでビビりな私だけど、状況が落ち着いたらまた一人で海外に行こうと思っている。