緊急事態
緊急事態だ。
英語リスニングのテストまで残り7分。
まだ余裕があると思っておにぎりを食べ始めた私は、
過去これまでにないくらい焦っていた。
おにぎりを開封し、海苔を巻いて手に持ったその瞬間、試験監督が教室内に入り、問題用紙を配り始めたのだ。このままではおにぎりを持ったまま問題用紙を受け取り、後ろの人に渡さなくてはならない。挙句の果てに、試験開始しても食べている可能性まである。なんという事だ。あまりにも間抜けが過ぎるだろう。
幸い、私の席は窓側から2番目。廊下側から配り始めたため、あと少しだけ猶予がある。
袋に戻すか?それともバックに入っているレジ袋に入れるか。数多の思考を重ね私が辿り着いたのは、食べ切ってしまう事だった。
勢いに任せておにぎりに齧り付く。その間によぎったのは、コンビニのおにぎりは30秒では食べられないというはじめしゃちょーから得た知見。
最近顎関節気味の私の事だ、それより時間がかかるかもしれない。より一層、勢いよく齧り、咀嚼し、飲み込む。1口、また1口。そうしている間にも、試験監督は配る手を辞めない。
ぱり、むしゃむしゃ、もぐ、ごくり。
ぱり、むしゃむしゃ、もぐ、ごくり。
試験監督が僕の居る列に問題用紙を配ると同時に、最後の一口に齧り付く。急いでマスクをし、手に着いた海苔を払う。ギリギリまで咀嚼し、前の人が振り返った瞬間、何食わぬ顔で受け取り、渡す。
勝った。私はこの一方的な勝負に勝ったのだ。
誰一人私がおにぎりを食べていたことに気づかないまま、試験が始まろうとしている。
口の中のおにぎりを飲み込みながら、少しずつ試験へ思考をシフトしていく。
試験開始の合図だ。
あぁ、何とお茶の恋しいことか。
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