GroupⅢマニアック解説:全合成ということ
GroupⅢとGroupⅢ+
さて本ブログではベースオイルの基本的な知識を紹介してきました。ベースオイルはAPIにより5個に分類されます。
特に鉱油といわれる、GroupⅠとⅡについては下の記事で詳細に解説しましたので、今回はGroupⅢに分類されるベースオイルについて解説します。このグレードのベールオイルを使用するオイルは、ベースオイルの部分が100%、GroupⅢや、それ以降のグレード(ⅣやⅤ)で処方される場合は「全合成」と呼ばれますが、GroupⅠやGroupⅡなどの「鉱油」と組み合わせて使用される場合は「部分合成」と呼ばれます。
GroupⅢというのは、水素化分解基油といわれるベースオイルですが、製造プロセスで定義されるというよりは、APIの分類で低硫黄、高飽和分で粘度指数が120以上あれば、このカテゴリーに分類されます。
SulfurやNitrogenといった項目は、いわゆる硫黄分、窒素分のことです。ベースオイル由来のスラッジ生成量や酸化安定性に影響しますが、GroupⅢの場合は、これらの値が検出限界以下まで精製されており、オイルの酸化安定性に寄与するといわれる所以です。
パラフィン分(Praffin,%)のおかげで粘度指数が高くなっていますが、この高い粘度指数により、VII(粘度指数向上剤)への依存度をへらしつつ、いわゆる”マルチグレード”オイルを処方できる可能性が広がります。
他にもGroupⅢとよばれるカテゴリーのなかにはⅢ+とよばれるカテゴリーがあり、蒸発特性(NOACK揮発度)や流動点などの低温特性が特に優れるものはポリアルファオレフィンと同等の性能を有します。
用途
前述のGroupⅢベースオイルの特性を活かそうとした場合、これらの材料はどのようなベースオイルに使用されるでしょうか。この章では用途について解説します。
エンジンオイル
エンジンオイルの代表的規格である、ILSAC,API,ACEAといった規格においては、厳しいスラッジ制御、燃費目標、排ガス浄化装置への適合性、エタノール系燃料を混合した場合のエンジン保護などが求められます。さらにこうした規格には0W-グレードが含まれ、きびしい低温特性も求めらえることから、GroupⅢベースオイルの需要を後押ししています。
オートマチックトランスミッションフルード(ATF)
ATFといえば、多段AT,DCT,CVTといった様々変速方式に対して適合するフルードが、それぞれ設計されています。どの場合も良好な酸化安定性や高粘度指数、低粘度化といったことが求められますが、燃費改善や、fill-for-lifeといったオイルの無交換を前提とした設計仕様により、GroupⅢベースオイルが使用されます。
ギアオイル
ギアオイルはどうでしょうか。ギアオイルの規格はGLやSAE J306などで規定されます。ATF同様、省燃費化、交換頻度の低減もしくは無交換を要求されます。エンジンが高出力化していますので、使用環境の温度も高くなる傾向にあり、良好な酸化安定性が求められます。
工業用潤滑油
工業用潤滑油は鉱油使用量が比較的多いようです。コンプレッサーオイルや冷凍機油ではGroupⅢの使用率が高い傾向にあります。工業用潤滑油はもともと添加剤の添加量が、自動車に比して低い傾向にあります。そのためベースオイルの粘度指数が、潤滑油の製品の粘度指数に大きく影響しますから、GroupⅢベースオイルを用いることで機器の効率を上げることが可能になります。作動油では低温側での始動性や粘性抵抗、高温側でのポンプによるフルードの吐出容量を改善するために、GroupⅢを配合した高粘度指数作動油が活躍しています。
需給状況
需給概算
2017年において潤滑油市場規模は世界全体の概算で38KKT, エンジンオイルは約10KKTとなります。KKT=100万トンです。[2] この数字はマリンオイルやプロセス油も含んでいます。
2016年におけるベースオイル需要をグレード別に、下記に示します。単位はKBDですので、一日あたり、1KBD=159KLで、680KBD=約100KKLとなります。(密度がありますからね。比重0.8-0.9で考えましょう)GroupⅢおよびⅢ+は12%ですので、だいたい10-13KKL/day程度を占めます。一年でベースオイル需要は35KKT(KKKL),GroupⅢおよびⅢ+は4.5KKTですね。年や出典によりばらつきますが、オーダーは大体前段の潤滑油市場規模と整合しますね。
供給者
1位のS-OILと3位のSK LubricantsはGroupⅢベースオイルの生産を主体としています。この両者でGroupⅢ需要の8割の生産能力を占めています。米国勢はGroupⅡの生産を主としているので、GTL(Gass to Liquid)であり、カタールのShell XHVIとよばれるGroupⅢ+ベースオイルとあわせると、中東および韓国勢がGroupⅢの供給力のほとんどを担っている状態です。国内では出光興産が30KT程度製造しています。
需給バランス
GrⅢ/Ⅲ+の地域別需給バランスは次のとおりです。日米欧はローカルの生産者が少なく、輸入国となっており、中東と韓国に依存しています。中国も同様の依存体質です。私見ですが、今後は地政学要因により、再生基油ーRRBO(Re-Refined Base Oil)の必要性が、SDGsの文脈以外でも高まることを予想しています。
需給の見通し
さて、今後の需給の見通しはどうなっていくでしょうか。コロナ中でイレギュラーがあったものの、基本的にどのグレードにおいても余剰状態となります。GroupⅠは需要側で高性能ベースオイルへの転換が進むことにより余剰感が強まるといわれており、Ⅱ、Ⅲは供給サイドの能力増強により、だぶつく見通しです。そのためGroupⅠでは生産能力の削減や、それ以外のグレードでは設備稼働率の低減を招くだろうといわれています。今後本Noteではベースオイルの需給状況を逐次アップデートしますが、ベースオイルのコモディティ感は強く、Ⅲが高性能、プレミアム。という価格面での位置づけは揺らいでいくでしょう。
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