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【ゆる解説】オイルの低温流動性について

オイル(潤滑油)の低温流動性とは

オイルの粘性と温度の関係
オイルの粘性は、温度が上がればサラサラになり、逆に冷却するとネバネバになります。サラサラ、ネバネバというのは「粘度」という値で表現されます。オイルは高温になれば粘度が下がり、低温になれば粘度が上がります。

オイルの粘度と温度の関係[1]

オイルの凍結;流動点

オイルも低温で凍結、凝固します。ラーメンの油やラードがさめて白く固まってしまうのと同じですね。「流動点」というのは潤滑油が凝固して、ラードやバターのように固まってしまうときの温度と考えてください。この「流動点」という温度は低い方が良いとされます。たとえば-40℃でもオイルが固まらなければ、極寒の極地でも機器が作動できることになります。


低温流動性について注意しなければいけない分野

低温流動性について注意を要するオイルの分野について紹介します。
まずは、航空機の分野です。航空機にはベアリングを潤滑するためのグリースや、油圧機器を動かすための作動油が多く使用されています。しかし、航空機が到達する高度で環境の温度がいちじるしく変動します。機種に応じて適切なオイルを選定する必要があることがわかります。

つぎに、自動車向けエンジンオイルです。
自動車がおかれる環境温度の変動要因は、運転時間、季節、緯度、標高、朝昼夜などの時間があげられます。運転時間というのは、エンジンが作動しはじめた直後はエンジンオイルは外気温と近い温度となっているはずです。しかし、運転をつづけしばらくすると、エンジン内での燃料の燃焼により、しだいにエンジンが温まってきます。したがって、エンジンオイルの環境温度は、エンジンが作動し始めた直後、それまで置かれていた環境温度が重要になります。

あなたの愛車を冬の北海道で一晩駐車したあと、朝一番にエンジンをかけたとします。エンジン内では、エンジンオイルは一晩かけてエンジンの下部に落ちていき、動弁系やピストンの周りからいなくなります。
そして深夜の氷点下の寒さでオイルがエンジンの下部(オイルパンなど)で固まってしまったら?朝あなたがエンジンをかけた瞬間、ポンプは凍結したオイルをタンクから吸い出せません。そうすると動弁系やピストンといったエンジンの部品はエンジンオイルが極めて不足した状態で動き出すことになります。
オイルは凍結したままでなかなか機器の摩擦部に供給されないので、大事なエンジンが焼き付いてしまうことになります。昔こういった市場トラブルが実際に報告され、自動車用の潤滑油の低温流動性を確保するという概念が確立しました。現在の潤滑油はこういった市場トラブルを起こさないように管理されているわけです。

ほかにもギアオイルや、作動油にもどうような作業環境温度と粘度の関係を考慮したオイル選びが必要となります。


オイルの低温流動性に関する規格

エンジンオイルの低温流動性
エンジンオイルの低温流動性はSAEJ300という規格の中で規定されます。エンジンオイルの缶をみるとよく、

0W-20
20W-60

と記載があると思います。この左側のWの前の数字がウィンターグレード(冬季の粘度)と呼ばれ、エンジンオイルの低温流動性を表します。

SAE J300

Cranking Viscosity(CCS), Pumping Viscosity(MRV)という二つの値で表現されるウィンターグレードです。CCSがエンジンのクランクシャフトをまわすのにエンジンオイルの粘度が支障がないかを見ています。MRVはオイルパンからオイルをポンプで吸い出すのに支障がないかを見ています。

想定している温度領域は最も高品質なグレードである0Wで-35~-40℃の使用環境での流動性を保証しています。数字が大きくなり、25Wともなると、-10℃~-15℃での使用環境をシミュレートすることになります。からなずしもウィンターグレードが使用環境を規定するわけではなく、ご使用の車両のオーナーズマニュアルを確認してください。

つぎに自動車ギアオイルです。
自動車用ギアオイルも、エンジンオイルと同様にウィンターグレードを持ちます。

75W-90
80W-140

といった場合の75Wの部分ですね。

自動車ギアオイルの場合はSAEJ306という規格で規定されます。70Wから85Wまであり、-55℃から-12℃までの低温流動性を測定しています。使用している試験法はブルックフィールド粘度(Brookfield Visocisity)と呼ばれ、BF粘度と呼称されます。

SAEJ306

作動油にも低温粘度に関する規定があります。作動油には様々な規格がありますので、別の記事で網羅します。
ここでは本邦の規格であるJCMAS HKを参照してみましょう。[x2] この規格でもBF粘度を使用して、-20℃や-25℃といった温度域で、認められた粘度範囲に適合することを求めています。

低温流動性の良いオイルの作り方

オイルの低温流動性をよくするためには、どのような方法があるのでしょうか。粘度と凝固の二つの指標から、処方の観点を紹介します。

粘度
オイルが凍結してしまう流動点や曇り点といった温度まで、オイルの粘度はある理論に基づいて上昇します。よく使用されるものはWaltherの式という、以下の式です。

log log (ν+k)=n-mlog T
ν:動粘度,cSt
T:絶対温度,k
k,m,n:油によって定まる定数

実際はテクニカルデータシートなどでよく表示されている40℃と100℃の動粘度を用いれば、この式の係数を確定させることができます。そのため粘度指数を参照すれば、極低温での粘度を予測することができます。端的にいえば、40℃の粘度が同じであれば、粘度指数が高いオイルは低温粘度も低く推移することになります。

したがって、この観点でよく使用されるアプローチは、
 高粘度指数基油を使用によるオイルの粘度指数の向上
 粘度指数向上剤(VII)を添加による粘度指数の向上
 低温で増粘効果が極めて小さくなる、高性能ポリマーVIIの添加
となります。

流動点
つぎにオイルの凍結による影響を緩和するにはどうすればいいでしょうか。これは前述の粘度とは異なるアプローチが必要です。
一般的には、
 ワックス分の少ないベースオイルを使用することによる流動点の低減
 流動点降下剤(PPD)を添加することによる流動点の低減
 流動点降下効果を有するVIIの添加による流動点の低減

流動点降下剤の深堀は別途記事を書きます。
なにか質問等あればコメントください。
ゆる解説でした。

[1]トライボロジスト,64,3,(2019)


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