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「ハリー・ポッターと精読のよろこび」 : 英語版ハリポタ一巻をじっくり読んで気付いたこと

こんにちは。
2年ほどかけて英語版ハリー・ポッターの一巻と二巻の精読をしてきました。その時に気になったこと・勉強になったこと・面白かったことを、noteにまとめていきたいと思います。

わたしのしている精読方法については、こちらの記事にまとめております。ご興味ある方はこちらもぜひ。

はじめに:ハリポタを英語で読む理由

JKRの書いたハリー・ポッターシリーズは、彼女が作り上げた魔法の世界観もさることながら、イギリスならではの文化や、面白い英語表現、そして作家自身のユーモアがふんだんに使われていることも大きな魅力です。最初の出版から25年を過ぎた今なお、新しい読者を獲得し続け、また、熱心なファンがいることも、作者の力のなせる技だと思います。

ハリー・ポッターシリーズを英語で読むということは、JKRの作家としての魔力をたっぷり味合うことができるということなのです!

この記事では、ハリポタ精読をする中で、わたしが面白いと思ったポイントの一部を、できる限りいくつかのグループに分けてご紹介いたします。今回は一巻「ハリー・ポッターと賢者の石」から。

その分、原作のネタバレになります。また、わたしは英語のネイティブスピーカーではなく、全て個人の見解・説です。この二点をご了承いただけますようお願いいたします。(むしろ、何かご意見やご存知の情報などがあったらコメントください!勉強になります!)

イギリスらしいもの・ことば

Knickerbocker Glory(ニッカーボッカー・グローリー)
「賢者の石」2章の動物園のシーン。ハリーのいとこダドリーは「大きなチョコレート・アイスクリーム」を父親に買ってもらい、運良くハリーも安いレモン・アイスを食べることができたところ。実はこのチョコレート・アイスクリームは、英語版では英国のデザート"Knickerbocker Glory"となっています。

写真はBBC Foodのレシピから引用。

上の写真はBBC Foodのサイトで見つけました。英国の超人気リアリティショー「ブリティッシュ・ベイクオフ」の審査員メアリー・ベリー氏のレシピです。チョコレート以外にもいろいろと美味しそうなものが載っていますね。カロリー高そう…。「Knickerbocker glory, the dessert of childhood dreams!」との文章が添えられていますが、まさにこのデザートは子供の頃食べたいと親にねだっても、なかなか買ってもらえなかった、英国の大人たちの思い出の象徴だそうです。

Hoover (掃除機をかける)
「ペチュニア叔母さんがハリーの部屋の掃除機をかけるのをやめた」という文脈で使われている単語Hoover(フーバー)。これは、アメリカの掃除機ブランドHooverの名前がイギリス(とアイルランド)で定着し、「掃除機をかける」という意味の動詞としても使われるようになったそうです。アメリカの会社なのに、アメリカ英語では使わない表現なのが面白いですね。

余談ですが、大学院時代、寮の掃除にはHenry(ヘンリー)という掃除機を使っていました。本体に顔がついていて可愛いのです。機種が変わると顔も名前も変わるユーモアたっぷりの掃除機です。

画像はヘンリーの公式サイトから引用 https://www.myhenry.com/ 

日本語では「なんだろう?」と思っていたもの

・Snuff-box 嗅ぎタバコ入れ
嗅ぎタバコ入れは、粉末状にしたタバコの葉(鼻から吸って楽しむそうです)を持ち運ぶために使う小さな箱。これ自体はアメリカ・ヨーロッパで普及しており、今でも買うことができるようです。
ハリーたちには、変身術の試験で、ねずみを嗅ぎタバコ入れに変えるという課題が出されます。美しい箱ほど点数が高く、ねずみのひげが残っていると原点されるシステム。
日本語版を読んでいた子供の頃は気づかなかったのですが、英国留学時、ロンドンの博物館で何度かこの「嗅ぎタバコ入れ」を見かけたことを思い出しました。

大英博物館所蔵。金を使ってあしらわれた日本風のデザインが素敵です。画像はリンク付きです。
V&A所蔵。鷹の顔の形です。

また、英国の人気ドラマ「ダウントン・アビー」でも、屋敷の主人であるクローリー伯爵の「嗅ぎタバコ入れコレクション」が誰かによって盗まれ、使用人が疑われるシーンがありました。

上の二点からも想像されますが、嗅ぎタバコ入れには実際に使うだけでなく、美しいもの・家宝的なものをコレクションする面もあったのだと思います。そう考えると美しいほど点数があがる、変身術の試験のルールにはなんとなく納得しますね。(とはいえ、1990年代の10代の子供たちが、ねずみを嗅ぎタバコ入れに変えられるようになって何の意味があるんだ、と疑問ですが!)

・Christmas Dinner クリスマスディナー
一巻12章のクリスマスの日のシーンを読んでいて、時系列的に腑に落ちないところがありました。まず、何も考えずに読むとこうなります…↓
1. クリスマスの朝、プレゼントに喜ぶハリーとロン
2.クリスマスディナーを先生たちと一緒に楽しむハリーたち
3.午後はウィーズリー家の双子と外で雪合戦を楽しむ
4.夕食は七面鳥のサンドイッチ(a tea of turkey sandwiches)

この順番だと、夕食を2回食べたか、実は2日経っているように感じませんか?しかしその後、ハリーはクリスマスの朝プレゼントで受け取った透明マントについて、一日中心にひっかかるものがあったと言っているので、クリスマスの日から日が経っているとは思えません

謎を解く鍵は2番目の「クリスマスディナー」Christmas Dinnerという言葉にありました。

イギリスでは1日のうち一番大きい食事を時間に限らずDinnerと称す風習があり、普段は夕食が一番量が多いが、クリスマスは特別にお昼にごちそうがでたのではないか。イギリス北部では夕食のことTeaと呼ぶこともある。

このことについては、ツイッターで親切な方が教えてくださいました。教えていただき辞書でも調べてみたら、たしかにその意味が載っておりました

日本語ではディナーといえば夕食だし、簡単な単語だから調べてもいなかったDinner。知っていると思っていたことほど新しい発見がありますね。

ハリポタの世界をより深く知れたこと

・杖に使われる言葉について
一巻5章、ダイアゴン横丁で杖を購入するシーン。ハリー、ジェームズ(ハリーの父)、ハグリッド、ヴォルデモートの杖について、それぞれ持ち主を象徴するような単語が使われているのではないかと気づきました。使われている単語とその意味をまとめてみます。

◉ハリー supple 柔軟な、しなやかな、曲げやすい 、従順な、素直な、追従的な
◉ジェームズ pliable しなやかな、柔順な、言いなりになる、融通のきく、すぐ影響される、順応性に富む
◉ハグリッド bendy  カーブの多い、自由に曲げられる、柔軟な

どの単語も「曲げやすい」の意味が共通していますが、少しずつ印象が違いますね。ネットの英語の書き込みでも見つけたのですが、bendy が「曲がりくねった」「曲げやすい」だけなのに対し、pliableは鉄を鋳型に入れて成形するような変化のことも意味するようです。

これは三巻でより明らかになることですが、ハリーの父ジェームズは変身術(物質を全く別のものに変える魔法)が得意で、20世紀のイギリス国内でも7人しか成功していないとても難しい魔術「動物もどき(アニメーガス)」の体得を10代で成功させていました。これは、特定の動物に、自分の好きな時に変身ができるようになる魔術です。

素朴でごつごつした印象を与えるハグリッドには「bendy」な杖が選ばれているに対し、変身術が得意で、人間ではない全く別の生き物に形を変えることができるジェームズには、成形しやすいpliableな杖が選ばれているのです。

また、当たり前に困っている誰かのことを助けることができ、物語の最後まで恩師・ダンブルドアに忠実だったハリーの杖には「素直な」「従順な」の意味が入ったsuppleが使われています。

一方、ハリーの宿敵・ヴォルデモートの杖の説明では、使われている木材そのものに持ち主を意識させる意味があると感じました。

ヴォルデモートの杖の素材はYew 西洋イチイです。ヨーロッパで自生し、毒があります。大きいものは20m近くまで育ち、北ヨーロッパでもっとも長く生きる木だといわれています。イングランドでは少なくとも500の教会に西洋イチイが生えていて、その中には教会の建物よりも古い西洋イチイもあるそうです。そのため、西洋イチイは「不死」「凶運」「破滅」を象徴するものとして扱われてきました。

このことを考えると、永遠に生きることを求め、結果的に破滅への道を選んだヴォルデモートの人生をまさに象徴するような木材が、彼の杖に使われていることがわかります。

本当はもっと書きたいポイントがあったのですが、大変な量になってしまったのでここで終えます。すぐに二巻「秘密の部屋」についての記事に取り掛かりたいと思います。

お読みいただきありがとうございました。
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