「ハリー・ポッターと精読のよろこび」②第二巻「秘密の部屋」まとめ
こんにちは。前回の記事に続き、ハリー・ポッターシリーズの2巻「ハリ・ポッターと秘密の部屋」の精読で気づいたこと・面白いと思ったことについて書いていきます。
1巻「ハリー・ポッターと賢者の石」の精読まとめ記事はこちら
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わたしの精読方法についてはこちらの記事でまとめています。
はじめに:ハリポタを英語で読む理由
※この項目は前回の記事からの引用です。重複しているので、前回の記事を読んでくださった方は飛ばしていただいてOKです!
J.K.ローリングの書いたハリー・ポッターシリーズは、彼女が作り上げた魔法の世界観もさることながら、イギリスならではの文化や、面白い英語表現、そして作家自身のユーモアがふんだんに使われていることも大きな魅力です。最初の出版から25年を過ぎた今なお、新しい読者を獲得し続け、また、熱心なファンがいることも、作者の力のなせる技だと思います。
ハリー・ポッターシリーズを英語で読むということは、JKRの作家としての魔力をイギリス文化と共にたっぷり味合うことができるということなのです!
この記事では、ハリポタ精読をする中で、わたしが面白いと思ったポイントの一部を、できる限りいくつかのグループに分けてご紹介します。今回は二巻「ハリー・ポッターと秘密の部屋」から。
※その分、原作のネタバレになります。また、わたしは英語のネイティブスピーカーではなく、全て個人の見解・説です。この二点をご了承いただけますようお願いいたします。(むしろ、何かご意見やご存知の情報などがあったらコメントください!勉強になります!)
面白いイギリス英語表現
「秘密の部屋」といえば、ハリーの親友ロン・ウィーズリーの家に泊まりに行くシーンが好きな方も多いのではないでしょうか。2巻ではビルとチャーリーを除いたウィーズリー家の家族全員が登場します。親切でユーモアのあるウィーズリー家の登場シーンはイギリス的な表現・物のオンパレードです。彼らに関連するシーンから2つご紹介します。
・Wellington boots 長靴
イギリスでは長靴のことをWellington boots(ウェリントン・ブーツ)、またはWellies(ウェリーズ)と呼びます。ウィーズリー家の自宅「隠れ穴」にある長靴にもこの表現が使われています。前回の記事でご紹介したhooverと同じく、この表現も固有名詞から来ている言葉です。
その固有名詞とは、ナポレオンに勝利したワーテルローの戦いで活躍した、初代ウェリントン公爵アーサー・ウェルズリー。彼は、それまで主流だった軍人用の長靴を改良し、当時の兵士たちが好んだ新しいタイプのズボンと合わせて履きやすい、短めでタッセルのない長靴を製作しました。
ウェルズリーは政治面・軍事面の活躍だけではなくファッションアイコンでもあったため、この新しい長靴は彼の名前をとってウェリントン・ブーツと呼ばれるようになったのです。その後ゴム長靴が登場した際も、彼にちなんでウェリントンと名付けられ、今もなおこの言葉が使われています。
また、ハリポタファンとしてはこの初代ウェリントン公爵「アーサー・ウェルズリー」の名前がどうもロンの父「アーサー・ウィーズリー」の名前に似ている気がしますが、貧乏で親切なロンの父親に比べると、ウェリントン公爵はそういうタイプではなかったそうなので、そのまま由来と考えることはできなさそうです。
・Have you~?
空飛ぶ車に乗ってハリーを家まで連れて帰ってきたロンと双子の兄・フレッドとジョージ。これは魔法界の法律違反。帰ってきたこどもたちを母親モリーが叱ります。
ここでモリーは「Have you any idea how worried I've been?」と言います。「わたしがどんなに心配していたかわかる?」といった意味ですが、学校で習った英文法を元に考えるならHave youではなくDo you haveといいたくなりますね。
ですが、それは日本の英語教育がアメリカ英語を中心としているからで、Do you have〜をHave you〜、I don't have any〜をI haven't any〜とする表現法は間違っておらず、主にイギリスで使われているそうです。
このシーンに限らず、ハグリッドとダイアゴン横丁(魔法使いの商店街)で初めて買い物をする時のハリーも「I haven't any monery.」(僕お金持ってないよ)と言っています。このセリフは、映画版ハリー・ポッターと賢者の石でも登場しますのでチェックしてみてくださいね。
今は使われていないかも?時代を感じる英語表現
ハリポタが最初に出版されたのは1997年。まだまだ多くのファンに愛され、新しい世代をも魅了している物語ですが、残念ながら10代、20代の読者にとって古臭く感じる表現も中にはあるようです。
そもそも、イギリスアクセント自体、若者の間では薄くなっている傾向にあると聞きます。アメリカをはじめとした他の英語圏のテレビ番組やYoutubeなどを利用する人が増えたからだそうです。
しかし私はあくまでイギリス大好き人間。ネイティブの20代との会話で使ったら、「古いね」と言われてしまう表現でも、ここでは気にせずご紹介します。
・Wind Down
ダーズリーによる監禁状態から、空飛ぶ車に乗ってハリーが逃げるシーン。
"He wound down the window, the night air whipping his hair… " と、ハリーは車の窓を開け、夜の空気と開放感に浸ります。そこで出てくる表現がwind down。
Collins Dictionary によると、wind down は車の窓を開ける時などに使えるようですが、動詞のwindは「回す、ねじる」の意味で、「開ける」の雰囲気は感じられません。ではなぜ「車の窓を開ける」場面で使えるのでしょうか。
その答えは、昔の車では、窓を回して開けるのが普通だったからではないでかというのがわたしの意見です。現在は廃れてしまいましたが、昔の車には、ドアの内側にハンドルがついていて、窓を開けるためにはそれを回す必要がありました。
実はわたしも、子供の頃親が乗っていた車はそのタイプでした。ハンドルを回すと、窓が少しずつ上から下がるので、自分の止めたいところまで頑張って回していました。
※こちらの記事に写真が載っていましたのでピンときていない方はご覧ください。レギュレーターハンドルと呼ばれるようです。
この件については、一度イギリス人とイタリア人のミックスの先生とオンライン英会話Camblyで話したことがあります。彼女いわく、車の窓にはもう「wind down」を使うことはなくなってきているが、ヨーロッパの商店でよく見る、店舗用の軒先テント(雨よけとも言えるかも?)をおろすときには、ハンドルを回すので、この表現を使うそうです。やはり、「回す」という行為と「降りる・さがる」といった結果の両方が揃った時に使われる表現なのかもしれません。
文化背景を知るともっと面白い!ジャスティン・フィンチ=フレッチリーの言葉
薬草学の授業で、ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人はハッフルパフの同級生、ジャスティンと知り合います。ジャスティンはマグル生まれ(親が魔法使いではない魔法使いのこと)で、そのことが後で問題になるわけですが、ここで話題にしたいのは、彼のこのセリフ。
”My name was down for Eton, you know…”
マグル生まれのジャスティンは、イートン校に行くことになっていたけれど、ホグワーツから手紙が来たので、親を説得してホグワーツに来たと語っていてます。
まず、「put one's name down for」には、「行事などの参加にあたり、名前を参加者名簿に書くこと」の意味があります。
ここで言われているイートン校は実在の学校。英国王室の子供たちなど、富裕層の子供たちが入る男子校です。現在はなくなったようですが、伝統的には、富裕層の親たちは子供が生まれると、イートン校などの名門校(パブリックスクール、またはインディペンデントスクールと呼ばれる)にその子の入学を前もって登録する風習がありました。
赤ちゃんの時に入学名簿に名前を書いちゃうなんて、気が早すぎるように思いますが、その風習からジャスティンは「my name was down for Eton」という表現を使っているのだと考えられます。
イートン校は英国の超有名校。「イートンに行く予定だった」の一言でジャスティンは自分がいかに裕福な家庭の出身であるかを自己紹介の段階で(意識的ではなかったにしろ)ハリーたちに伝えていることになります。
魔法界育ちのロンは何も気にならなかっただろうと思いますが、マグル世界で育ったハリーとハーマイオニーは気づいていたかもしれません。
実はこの表現は、1巻「ハリー・ポッターと賢者の石」にも出ています。嵐の中、ホグワーツの入学許可書の入った手紙をハグリッドが届けにくるシーンです。
"His name's been down ever since he was born." 「ハリーの名前は生まれた時からホグワーツの入学リストに載っているんだ」(だからマグルの叔父叔母に入学を止められるものではない)という意味です。
このことから、ホグワーツもイートン校と同じく、赤ちゃんの段階で入学者のリストを作る風習を持っていることがわかります。ホグワーツはイギリスの魔法界の名門校なので、なんだか納得しますね。入学許可書が来るまでホグワーツを知らなかったマグル生まれも入学していることを考えると、なんらかの魔法によって、魔法力を持った子供の誕生を察知し、入学者リストが作られる仕組みになっているのではないかと思います。
隠れたロンの賢さ!慣用句をさらっとアレンジしています
2巻で登場した人気キャラといえば、ギルデロイ・ロックハート。闇の魔術の防衛術の先生として雇われたはずのロックハートですが、異常な虚栄心の持ち主で、生き残った男の子として有名なハリーを自分の人気度を上げるために使おうとします。そのためハリーに自分とのツーショット写真を強要したり、頼んでもいないのに有名人のなんたるかをハリーに語ろうとします。授業では自分の功績(と本人は主張している)を再現するロールプレイを生徒に見せるのが大好き。自分が倒した獣の役をハリーに演じさせます。
当然ハリーはいやでいやで仕方がありません。そんなハリーにかけたロンの一言が面白いのでご紹介します。
"You could've fried an egg on your face."
直訳すると、「顔でたまごが焼けそうだよ」の意味になりますが、どういうことでしょうか。調べてみると、"egg on one's face"という慣用句があることを知りました。「恥をさらすこと」という意味です。
確かに「たまごが顔についている」状況を想像すると、十分恥ずかしいですが、ここでロンはただ たまごが「ついている」だけではなく たまごが「焼けそう」と言っています。
これはおそらく、ハリーの羞恥心レベルがただの恥ずかしいを超えて、顔が真っ赤になって、暑くなっているほどだったのを見て、そんな真っ赤な顔ならたまごに火が通ってしまいそう、という意味で言ったのではないでしょうか。
こんなふうに慣用句をさらっとアレンジして話すところに、ロンの隠れたユーモアと賢さを発見できますね。日本語版を読んでいた時には気づかなかったのですが、ハリーとハーマイオニーもこういうロンの賢さを知っているのでしょう。
おわりに パッチワーク
最後に、実際にイギリスに行って、「まさにその通りだなあ」と思ったシーンをご紹介します。
ホグワーツ特急に乗りそびれ、空飛ぶ車に乗るハリーとロン。その高揚感の中で、ハリーは空から小さくなる街を見下ろし、「パッチワークのようだ」と言っています。上の写真は私がイギリス留学の時に飛行機の上から撮影したものです。少しずつ近づくロンドンの景色はパッチワークのようで、この様子を見るといつも「ついにイギリスに来られた!」とハリー並の高揚感に包まれます。
長くなりましたが、ハリポタ2巻「ハリー・ポッターと秘密の部屋」の精読記事はここまでです。ここまでお読みくださった方、本当にありがとうございます。精読のワクワクを少しでもお裾分けできていたら嬉しいです。
ぜひ他の記事やyoutube(不思議の国のアリスの日英朗読を配信しております)なども覗いてみてくださいね。
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したがって、この文より下には何も書かれていませんのでご注意ください。
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